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③④は後回しにする。多分最後に触れることになるだろう。
人肉食のテーマは『別荘』を貫く最も重要なものであるとも言える。第1章「ハイキング」の冒頭から、我々は「別荘の周りに出没するという人食い人種」についての噂を聞かされるのであり、このテーマは最終の第14章「綿毛」におけるウェンセスラオの感動的な演説まで連綿とつながっている。
ウェンセスラオは最初の章からこんなことを言っていとこ達をからかうのである。
「真っ先に食べられるのは、メラニア、君さ! その胸、その見事な尻…… 人食い人種たちに犯され、大切なものを奪われた挙げ句、生きたまま食べられるのさ……」
メラニアはいとこの女子のうちの最年長者(16歳)であり、男子の最年長者フベナル'(17歳)とともに「侯爵夫人は五時に出発した」ごっこの中心メンバーをつとめる。ウェンセスラオはこの"ごっこ遊び"から疎外され、以降この遊びに加わることはない。
人食い人種に対する大人達の見解はどうなのか? それを代表するのが一族のリーダーとも言うべきリディアであり、彼女は毎年別荘で過ごす時期になると、使用人達に次のように訓辞するのである。
「破壊者たる子供たちは諸君の敵であり、彼らは規則に異議を唱えて秩序を破壊することしか考えていない。まだ大人たるに必要な叡智を備えていない子供は、極めて残忍な生き物であり、批判や疑問にかこつけて何かと難癖をつけ、反抗し、汚染し、要求し、破壊し、攻撃し、平和と秩序を掻き乱し、やがては、いかなる批判も寄せつけぬこの偉大な文明という秩序の監視者たる諸君を打ちのめすに至る。この点をよく肝に銘じておいてほしい。これに勝る脅威といえば人食い人種の存在だけであり、下手をすると子供たちは。無知なまま何の悪気もなく、いや、まったく気づくこともないまま、彼らの手先になってしまうかもしれない」
このリディアの訓辞は、人食い人種というものを秩序の紊乱者=子供の延長上に位置づけるものである。子供というものと人食い人種とは密接に関連づけて捉えられている。
この訓辞は小説後半の子供達と原住民との共闘を予告するものであるばかりでなく、次の章におけるミニョンの残酷な食餌行為をも予告するものである。ミニョンの行いは「まだ大人たるに必要な叡智を備えていない子供は、極めて残忍な生き物」であることを証し立てているのだから。
さて、もう一度あの凄惨な場面に戻ってみよう。原住民によって豚が生贄として捧げられる場面、豚と戯れる三人の子供達……。
「白い服を着た三姉妹のように見える子供たち――(略)――が豚と戯れ始め、ウェンセスラオはその上に跨った。
「もうすぐ殺されるぞ!」彼は脅しの声を上げた。「もうすぐ殺されるぞ!」
アイーダは豚の尻尾を伸ばそうとし、ミニョンは金切り声を上げながらその耳を引っ張った。そして二人は叫んだ。
「あと数分の命よ!」
「私たち人食い人種がもうすぐ食べちゃうから!」」
この最後の言葉が、アイーダとミニョンによって発せられるということに注目しなければならない。ミニョンはこの後実際に、人肉食を実行に移すのであるから。
ここにも人食い人種と子供とが同類であることが語られる。無知と無邪気の故にそうであることが……。