玄文社主人の書斎

玄文社主人日々の雑感もしくは読後ノート

「北方文学」70号記念号発刊

2014年07月29日 | 玄文社
 市内小倉町の玄文社はこのほど、文芸同人誌「北方文学」七十号記念号(北方文学編集委員会編集)を発刊した。「北方文学」は昭和三十六年創刊で、これまで五十四年の歴史を刻んできた。長岡商業高校の卒業生を中心に、長岡市とその周辺の文学愛好家が集まって創刊された雑誌だが、徐々に同人も増え、中越をはじめとした県内各地だけでなく、首都圏の同人をも擁するようになり、発展を続けてきた。
 平成二十三年の東日本大震災後に「現代詩特集」を組み、いち早く辻井喬、長谷川龍生、谷川俊太郎、吉増剛造など、日本を代表する詩人達の、震災と原発事故直後の思いを託した作品を掲載して全国的に注目された。十五年ほど前から編集事務局は柏崎の玄文社が勤めてきているが、三年前に創刊者である長岡市来迎寺の吉岡又司が死去し、実質的に長岡中心から柏崎中心の同人誌に変わりつつある。
 七十号にも柏崎在住者四人と、柏崎出身者一人が執筆している。文学と美術のライブラリー游文舎企画委員の霜田文子は、日本シュルレアリスム美術への関心から、古賀春江の作品について、当時の日本の文芸理論あるいはモダニズム詩との関連において、その作品を解き明かしている。
 大橋土百は高柳町石黒在住で「じょんのびだより」編集長として活躍しているが、今号では3・11東日本大震災後の世相と自分自身との関わりを、鴨長明の「方丈記」に託して語っている。
 埼玉県の徳間佳信は柏崎出身者で二年前、米山検校の子孫の一人として『銀のつえ~米山検校をさがして』を上梓して話題となった。今号では中国現代文学研究者として魯迅賞受賞作家・石舒清の問題作を訳出している。
 石黒志保は村上出身だが、現在ドナルド・キーン・センター柏崎の学芸員として勤務している。今号では日本の古典和歌論をその言語観を中心に据えて分析するという試みに挑戦している。石黒は同人ではないが次号から同人となる予定。
 同人歴四十年の柴野毅実は、このところ言語論を中心とした原理論的な仕事を続けていて、今号ではベンヤミンの「言語一般および人間の言語について」の読解を試みている。
 また、平成二十一年の六十二号から六年間、表紙絵とカットは、市内鯨波三の佐藤伸夫さんが担っている。佐藤さんは一貫して海をモチーフとした作品を寄せていて、「北方文学」の視覚的イメージを高めている。
 全国に文芸同人誌はたくさんあるが、そのほとんどが小説と詩中心であるのに対して、「北方文学」は評論を中心とする方向を強めている。今号も評論十編を掲載するが、こうした傾向は他誌には見られないもので、同人それぞれの関心の幅が多彩な内容を実現させている。現在、二年に三号のペースで刊行を続けている。A5判、三百十四頁、特別定価千八百円(税込)。問い合わせは玄文社(電話0257-21-9261)まで。

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