県内の聴覚障害者の悲願だった「県聴覚障がい者センター」が十二日、福井市光陽二丁目の県社会福祉センター内に開設される。センター開設によって、テレビ番組を収録したDVDへの手話挿入権が認められるなど、従来より幅広い支援が可能になる。県聴覚障がい者協会の石田稔事務局長は「幅広く情報発信し、障害者を支えたい」と力を込める。
センターを運営するのは、関連する任意団体やNPO法人六団体で新設する「県聴覚障がい者協会」。身体障害者福祉法に定められた「情報提供施設」を開設することで支援の幅が広がる。一九九七年に設立委員会を発足し、開所準備を進めてきた。同種の施設は全国四十都道府県にあるが県内での整備は遅れていた。
事務所を置くセンターには、よろず相談を受ける聴覚相談室のほか、編集室とスタジオを設置。編集室には今後、スタジオで撮影した手話を、別の番組のDVDに挿入できる機材をそろえる。
「スタジオでは独自にニュース番組も製作したい」と石田さん。背景には、消費税増税や定年年齢の引き上げなど、暮らしに直結する情報を伝えるテレビ番組への不満がある。
表やグラフを使った解説は障害者にもわかるが、理解に時間がかかる。「健常者向けにつくられた番組は早口。もっと分かりやすく工夫したニュースを作りたい」と意気込む。
東日本大震災時にも苦い経験をした。被災地の聴覚障害者を支援しようと、石田さんは県に職員の派遣を申し出たが、「任意団体の派遣に県は責任を持てない」と断られた。結局、誰も派遣できず「福井で災害が起きたら、誰も助けてくれないのでは」と不安が募った。
聴覚障害者情報提供施設の開設によって全国協議会に加盟する。協議会は災害時に被災地と支援者の仲介役を務めるため、石田さんは「今後は堂々と支援できる」と胸をなでおろす。
このほか県の障害者福祉計画の策定に関われるなど、業務の幅はぐっと広がる。石田さんは「積極的に情報を発信し、孤立しがちな聴覚障害者に手を差し伸べたい」と話している。
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センター内に設置された手話を録画できるスタジオ=福井市の県社会福祉センターで
中日新聞-2013年4月11日