聴覚障害者向けのアプリサービスが広がってきている。平成28年4月に「障害者差別解消法」が施行されたことに伴い、テレビの字幕放送の拡大や、保険サービスへの手話導入などさまざまな取り組みが始まっており、スマートフォン上でのサービスもその一環。入力した文字を音声にしたり、話した言葉を文字で表示したりできる。日常のコミュニケーションに役立つほか、災害など緊急時の連絡手段としても活用できそうだ。
手話できなくてもやりとり
音声言語の技術開発などを手掛けるフィート(東京)は、スマホ向け無料アプリ「こえとら」を提供。手話ができなくても文字と音声で簡単に対面でやりとりできる。
「交番はどこですか」などと文字で入力すると音声に変換されて相手に伝わる。相手の発した言葉は文字となり、画面上に表示される。
よく使う言葉を定型文として登録したり、手書きで地図情報を伝えたりできる機能も付けた。
聴覚障害者と健聴者の会話は筆談が一般的だが、時間と手間がかかり意思疎通は容易でない。「手話ができなくても簡単に会話できる仕組みをつくりたい」と情報通信研究機構(NICT)が開発、27年にフィートが技術移転を受けた。
利用者からは「聴覚障害は見た目に分かりにくく、やりとりが難しかった。仕事で使っている」という声が寄せられる。浜田洋専務は「高齢に伴い難聴になる人も増えている。家庭での会話や介護施設の場でも活用してほしい」と話した。
通話サポート
NTTドコモのアプリ「みえる電話」は全国約千人を対象に試験サービスをしている。IT技術を活用し、相手が話した内容が瞬時にスマホ画面に文字表示される。相手には文章入力した内容が機械音声で伝わる。
聴覚に障害がある社員の青木典子さんが提案。開発に際し、聴覚障害者に調査したところ「台所の水漏れ」「クレジットカードの紛失」といった電話連絡が必要なときに困っていることが分かった。青木さんは「インターネットやメールが普及しても電話が必要な場面は多い」と指摘する。利用者からは「久しぶりに電話で雑談を楽しんだ」などと好評だ。
音声認識の精度を高めるなどして早期の実用化を目指す。開発を担当する河田隆弘さんは「発話が困難な人や相手の声が聞き取りにくい人を含めて、お互いにつながるためのサービスを充実させたい」と話す。
朗読した音声コンテンツを提供 失明の祖父思い「本を聴く」広げたい
さまざまな分野の書籍を声優らが朗読した音声コンテンツについて、インターネットで提供するサービス「オーディオブック」を手掛ける「オトバンク」(東京)。上田渉(わたる)社長(37)は、「耳の隙間時間を使って『本を聴く』文化を広げたい」と狙いを語る。
スマートフォンのアプリやパソコンで会員登録して利用する。コンテンツはビジネス書、文芸書、学術書のほか落語もあり、合計で約2万数千種類。月750円で1万種類から選べる「聴き放題」プランなどがある。
読書好きだった祖父が病気で失明。目が不自由な人に本を楽しんでもらいたいとの思いが起業につながった。「本を耳で聴くということが社会の常識になれば、目の不自由な人も周囲の人の協力で利用できるようになる」と考え、まず普通に目が見える一般の人向けに事業を始めた。
録音の前に担当する社員が本を読み込み、声優らと打ち合わせをする。「特に文芸書の場合は、内容を十分に理解していないと良い録音にならない」という。声優選びも重要だ。児童文学の名作には読み聞かせが得意な女性の声優を起用。朗読時間が20時間にもなる学術書は、聴いていて疲れにくい声の人を選んだ。
各地の点字図書館などの施設に、コンテンツの提供を進めている。「健常者も目の不自由な人も、同様に出版文化の恩恵を受けられるバリアフリー社会を実現したい」と意気込む。
2018.5.25 産経ニュース