横浜で来月2日上映 殺傷事件の被害者家族登場
重度の知的障害者が親元や施設を離れ、自立生活を送る日々を追ったドキュメンタリー映画「道草」が完成した。6月2日には横浜市中区で開かれる集会で上映される。相模原市の障害者施設殺傷事件で息子が重傷を負った尾野剛志さん(74)家族も登場する。宍戸大裕監督(36)は「彼らが伸びやかに生きる姿を見てほしい」と話している。
街中のアパート。起床して朝食をとり、外に出かける。大好きな電車が通る姿を眺め、公園に立ち寄ってブランコをこぐ。映像は介助者の手を借りながら1人暮らしをする障害者らの、何気ない日常が映し出されている。
製作のきっかけは2016年4月。人工呼吸器を使って生きる人々の姿を描いた宍戸監督の作品「風は生きよという」の上映会で、早稲田大の岡部耕典教授(福祉社会学)から依頼を受けた。岡部教授の息子は知的障害と自閉症があるが、訪問介護で自立している。岡部教授は「息子のように、自立している障害者の姿も伝えてほしい」と頼んだ。
入所施設に入ることが難しい重度の知的障害者と出会い、その行く末に疑問を持っていた。そんな中、入所施設やグループホーム、親元でもない場所での暮らしは、一筋の光に思えた。宍戸監督は岡部教授の息子ら、障害を持ちながら自立生活を送る3人の青年の日々、彼らに寄り添う介助者の姿にカメラを向けた。外出中にコンビニのガラスを割ってしまうなど、激しい行動障害を持つ青年もいる。二人三脚で葛藤しながら歩む日常を映像に収めた。
撮影の途中、相模原の事件が起きた。あまりに凄惨(せいさん)で、映画の中で触れられないと思った。だが、昨年5月、相模原市の集会で尾野さん夫妻と出会い、考えが変わる。「入所者家族の思いを背負って代弁する尾野さんの姿を見て、このままではいけないと思った」と宍戸監督は言う。悩みながらも尾野さん家族の撮影を始め、会うたびに変わる息子の一矢さん(45)の表情や、地域に目を向け始める夫妻の姿を記録した。
タイトルの「道草」には、そんな彼らと道草を食うように生きる日々のいとおしさが込められている。宍戸監督は「目的地に向かって真っすぐだけの人生ではなく、目的を持たず伸びやかに生きる彼らの姿をみてほしい」と語る。
映画は6月2日に横浜市技能文化会館で開かれる、障害をもつ人のNPO「障害者インターナショナル(DPI)日本会議」の全国集会で上映される。年内には各地で上映も予定している。
毎日新聞 2018年5月29日