原題 「MICROBE ET GASOIL」 製作年度:2015 上映時間:104分 製作国:フランス
監督&脚本: ミシェル・ゴンドリー 音楽:ジャン=クロード・ヴァニエ
「グッドバイ サマー」という映画名からは、なにか甘酸っぱいひと夏の思い出みたいな映画かなと感じてしまう。でも原題は「デブとノッポ」みたいなものだから、フランス人が日本名を知ったら嗤ってしまうかもしれない。
14歳のクラスのはみ出し者二人。好奇心、冒険、世間知らず・・・。一人は絵が上手でもう一人は機械いじりが大好きである。その少年は廃棄業者のところにあった2気筒のガソリンエンジンを見つけ、親に内緒で買って帰り、自分の部屋で廃棄ガスにまみれて再生させる。ぜんそくで苦しむ母のことなどおかまいなしの自己中ぶりだ。再生したエンジンを動力として、廃品を拾い集め、二人は奇妙な自動車を作り上げる。掘っ立て小屋のような外観、大きな立形のドア、木のベット、小さな机、長椅子のような運転席、大きなフロントガラス、リアエンジン・・・・・・つまりお手製のキャンピングカーなのだ。そして公道を走りだす。4つの車輪は板で隠せるようになっていて警察官も気付かない。こうして14歳の少年達は夏休みのドライブをする。様々な出会い、経験、苦労を重ね、遥か山を越えてのろのろと走る。でもやがて駐車した場所が悪くて、燃やされてしまう。それでも修理して走りだすけど、今度はブレーキがきかなくなってしまい、坂道を転がるように走るのでついに脱出。手製の車は崖から転落、あえなく川の藻屑となり、二人は歩いて遠い道のりをスゴスゴと空腹を抱え家を目指すのだった・・・・・・・
観た映画をきっかけに、ふと遠い昔を思い出すことがある。少年たちにとってひと夏の出来事、一刻一刻は、ほかのことを考える余裕等ないだろうけれど、数十年経てフトその一時がよみがえったとき、かけがえのない己の人生の一コマを思いだし、空を見上げるものだ。「グッドバイ サマー」はその原風景のサンプルなのかもしれない。取り立てて面白いというわけでもないし、悲壮というものでもない。BGMもそれに合ったゆるい、猫が長々と寝そべっているような音楽だ。 観た映画館もレトロだった。60年以上にもなるらしい。二階への階段脇にはこれから上映予定のチラシや、ポスターでいっぱいだ。二階フロアーには年若い兄ちゃんが、売店とチケット販売をかけ持ちで働いている.館内の通路には予備の椅子がたくさん積み重ねられている。でもトイレくさいわけでもなく、ゴミくさいわけでもない。若いおねーちゃんが小さな声ながらも良く通る声で、場内入れ替えの案内をしている。館内の椅子の座り心地は申し分ない。良く掃除されており清潔。本編の前に予告編が2~3本。しかしあのニュース映画がなくなって、もう何年になるだろう。いまどきのアナウンサーや声優にもない、独特の明るさ、緊張感のあるナレーションで語られた白黒のニュース映画。代議士の汚職、華やかな芸能人の一コマ、汗まみれの男たち、ショッキングな海外の報道・・・・みんなみんな刺激的だったのだ。あの「刺激」を最近の映画館に感じない。現代は、すぐれてその映像美、高機能・環境を享受しているが、思い出として残るものは少ないのではなかろうか。ひたすら前を、前を・・・・時代に遅れないように・・・という気がする。