『散り椿』 第42回モントリオール世界映画祭審査員特別賞受賞
監督・撮影:木村大作 脚本:小泉堯史 原作:葉室麟 音楽:加古隆
東宝映画 製作:「散り椿」製作委員会 市川南
新兵衛:岡田准一 采女:西島秀俊 里美:黒木華 惣兵衛:石橋蓮司 玄蕃:奥田英二
「散り椿」 とても絵画的なタイトル。さすが物書きは豊富な語彙を持っているものと思う。
「散り椿」の正式名称は「五色八重散り椿」。一本の椿の木に、白から紅まで様々に咲き分け、花弁が一片一片散っていくのだそうだ。見たことはない。
映画では満開の散り椿を背景に物語が展開するシーンがある。そういえば「椿三十郎」とか「柘榴坂の仇討」とか、椿が鮮やかに撮られていたのを思い出す。洋画ではあまり記憶にないので、椿は日本映画独自の存在感のある花なのかもしれない。故郷の家に咲く、散り椿。あの椿をまた見に帰ろうと言う、病に侵された妻。しかし故郷に帰るということは、それなりに平和だった藩にとっては歓迎されざることだったのだ。主人公はそれを承知の上で藩に帰る。それを察知した藩は刺客をどんどん差し向けるけど、主人公はそれらをバサバサと斬りまくるのだ。久しぶりに、切られると血しぶきが飛び、顔やら着物が血だらけの殺陣シーンを見た。主人公・岡田准一の殺陣は凄惨というよりむしろ美しい。構え・スピード・動作・伝わってくるもの・・・どれも腰が据わっていて様になっている。劇画チックでないところがいい。もちろん殺陣師の演出にもよるのだろうけど、殺陣師のスタッフとしても岡田の名がクレジットされてるところからすれば、殺陣師的ななセンスも十分持ち合わせてるのだろうと思う。
この映画は全編オールロケというだけあって、背景が半端ではない。故郷の山々、うっそうと茂る大木、満開の散り椿、ふわりふわり数限りなく降りしきる雪、激しい豪雨、屋敷の調度品の数々・・・どれも秀逸なのだ。加古のBGMがそれ等とともに一層引き立てる。見事すぎて、だからもっと絞り込めばもっと効果を高めたかもしれないと思う位だった。
新兵衛と里美の別れが、満開の散り椿がバックであったとしたら、また違ったストーリー展開になっていたかもしれない、などと思ったりした映画だった。