横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心臓血管外科診療における新鮮凍結血漿の適正使用

2020-09-04 13:49:41 | 心臓病の治療
 心臓血管外科手術中の出血傾向の多くは、人工心肺の使用や、出血による消費性の凝固障害が多く、凝固因子の補充治療が止血を得るのに必須となる場面が多いのが現実です。
 特に出血傾向を呈するとされる基準は
①プロトロンビン時間 PT-INR 2.0以上 または30%以下
②APTT  基準の2倍以上
③フィブリノーゲン値 <150mg/dl

手術中は実際に測定したフィブリノーゲン値を参考に新鮮凍結血漿(FFP=Fresh Frozen Plasma)を輸血していることが多です。フィブリノーゲン値が150mg/dlを超えるように輸血していますが、通常、有効な止血効果を得るには正常の20-30%も凝固因子活性があればいいとされ、その20-30%の活性を上昇させるFFPの量は、患者さんの体重1kgあたり8-12ml/kgのFFPが必要と言われています。すなわち、体重50kgの場合は400-600mlとなり、2~4単位の輸血である程度、凝固因子は補充されると言うことになります。
 心臓血管外科手術においては実際にFFPを投与しても同時に凝固因子の消費も発生しているため、計算上は遙かに多くのFFPを必要とする場合が多々あります。
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心臓血管外科診療中のDICにおける血小板減少に対する血小板輸血

2020-09-04 13:43:48 | 心臓病の治療
 心臓血管外科診療におけるDICは大きく二つのカテゴリーにおいて経験することがあります。
①大動脈疾患などによる慢性消費性凝固障害
  大動脈瘤内の血栓形成や大動脈解離の偽腔内における血栓形成で凝固因子や血小板の消費が起こり、出血傾向を呈する
②感染に伴うDIC
  術後の縦隔炎や創部感染、肺炎などによる重症感染症が引き起こすDICや、感染性心内膜炎に伴うDIC

いずれにしろ、血小板減少、出血傾向、術中の止血困難に陥る危険の高い状態です。
DICにおける血小板減少に対しては、血小板数5万/μl以下で出血症状を認める場合に血小板輸血を考慮する、となっております。この血小板輸血によって5万/μl以上の血小板数を維持する、ということが血小板輸血量を決定する基準となります。
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心臓血管外科手術における血小板輸血の基準

2020-09-04 13:28:31 | 心臓病の治療
 血小板輸血は心臓血管外科手術において、特に止血が困難である状況下では、救いの一手になる輸血です。
 特に血小板輸血なしでは、急性大動脈解離や広範囲の胸(腹)部大動脈瘤は戦えません。
 しかしながら、筆者を含め多くの心臓血管外科医は血小板投与した患者さんの保険診療において血小板輸血が査定され病院の持ち出しになってしまう現実に苦汁をなめさせられてきました。病院内において、心臓血管外科手術は診療点数が高い分、格好の査定のターゲットになり、病院経営上、努力の報われない、評価されない部分の多い診療科です。症例数が多い病院では、こうしたリスクと無駄・持ち出しの多い手術に関しては対応せず、儲けの大きい疾患だけ選んで治療する、という風潮も昔はありましたが、横須賀市立うわまち病院心臓血管外科のように、地域に根ざした医療を実践する施設においては、地域で発生する疾患を地域で完結する使命があり、たいへんな症例でも、経営的にメリットの少ない手術でもえり好みせずに対応することが必要ですし、現にこの11年、地域の医療のために尽力してきました。
 最近になって輸血のガイドラインが作成されるようになり、この基準に従って輸血を行うことによって保険者に査定されることが明らかに減ってきました。単に人柄のいい理解のある担当者に代わっただけ、という可能性もありますが、ガイドラインに従って適切に輸血のタイミング、量を決定して実践することで、病院の経営的ロスも少なくすることが出来るようになってきました。
 血小板輸血においては、一般に出血傾向を呈する可能性がある5万/μl以下が血小板輸血の開始のタイミングと一般に言われており、計算によると、通常、60kgの人に10単位を輸血すると32000/μl以上、血小板数が増加すると言われています。
 長時間の人工心肺使用や低体温循環停止などの手技を行う心臓血管外科手術では特に血小板数減少や血小板機能異常による出血傾向、止血困難になりやすく、この場合は血小板数5-10万/μlになるように血小板輸血を行うべきと、低減されています。
 もし20単位の血小板輸血を60kgの患者さんに行う場合は、64000/μl以上の血小板数増加が見込めることになり、輸血前の血小板数がもし4万/μlだったとすると、輸血後は10万/μlになり、10単位なら認められるが、20単位は認められない、という事態が発生しうることになります。
 現場としては救命には、術後に査定されることよりも、目の前の命を救うことに全力をかけるのが心臓血管外科医ですから、そうした血小板輸血が査定されることは全く躊躇せずに患者さんに投与していますが、ちょっとしたこういう知識を持ち合わせることによって医療資源の無駄を最小限にして、より多くの患者さんに結果的に有効な資源を行き渡らせることになると思います。
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赤血球輸血の投与開始基準

2020-09-04 12:32:24 | 心臓病の治療
 人工心肺を使用した弁膜症や冠動脈バイパス手術においての赤血球輸血の開始する基準が9-10g/dlと強く推奨されています。特に虚血性心疾患を有する場合はこの開始基準を8-10g/dlとなっており、他の周術期貧血での開始基準7-8g/dlよりも高めに設定されています。
 他の急性出血の場合は主に7g/dlが推奨されています。

 こうした基準を知った上で使用することが、保険診療において査定されるリスクが減るものと考えます。
 輸血の開始する指針が提唱されてから輸血を理不尽に査定されることが激減していると実感しています。ただ、限られた医療資源を有効に利用して、より多くの患者さんに適切の届けるためには極力無駄が無いようにする必要があります。

 心臓血管外科医としては、術後の出血が少なくて追加の輸血が必要ないようにしっかり止血をしてから閉胸、閉創する努力を怠らないことが重要です。
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