高齢者に対する大動脈弁狭窄症手術件数が増加し、TAVIも増加している一方、SAVRに対しても今後MICSアプローチが増加していくものと考えられます。中でも縫合糸の糸掛け、結紮に関する時間短縮が可能なスーチャレス弁は低侵襲心臓手術を推進していく上でも有用です。
横須賀市立うわまち病院心臓血管外科で2018年から2022年で行った大動脈弁狭窄症に対するMICS-AVR(単弁置換症例のみ)39例のうち、従来の弁置換術を行ったC群35例(平均年齢76歳)と、エドワーズ社製スーチャレス弁であるIntuityを移植したS群4例(平均年齢81歳)において、手術時間、人工心肺時間、大動脈遮断時間、輸血量、術後在院日数、合併症について比較検討すると、手術時間C/S=242/197、人工心肺時間C/S=123/103、大動脈遮断時間100/84分で、術後在院日数はC/S=20.1/15で優位にS群で短縮が見られました。輸血量に有意差なし。
スーチャレス弁を使用することによって、糸掛け、糸結びの時間が短縮され、大動脈遮断時間、人工心肺時間、手術時間でそれぞれ15分、20分、20分の時間短縮が可能となった。しかしIntuityは従来の人工弁よりもやや大きく、ST接合部が狭い症例や狭小弁輪では挿入しにくいので、より丁寧な弁切除の手技が必要になり、デプロイの際の位置決定にも慎重にならざるを得ない点で、C群よりも弁切除に時間がかかる傾向にあります。結紮に伴う縫合糸の緩みや弁輪組織のカッティングのリスクがない分、術者のストレスは軽減されるだけでなく手技上のトラブルも少ないため術後在院日数も短縮されていました。
MICS-AVRにIntuityの使用は45分の手術時間および16分の大動脈遮断時間、術後在院日数の短縮と手技上のトラブルや外科医の精神的ストレス軽減に役立っているので、今後の適応症例が増えそうです。
このIntuityはまだ、神奈川県内では、ほぼ横須賀の2施設でしか使用されていないようです。