右小開胸アプローチによる低侵襲弁膜症手術の際は、手術操作に必要な部位にのみ到達できる最低限の皮膚切開で手技を行うため、その分、安全域が小さい視野での手術となります。
特に、術中、術後の徐脈や房室ブロックなどでペーシングが必要な際に、心外膜ペーシングリードがうまく効かないと致命的な問題に発展する可能性があります。術中に設置する心外膜ペーシングが確実に効くように、遮断解除して心臓が張って視野が悪くなる前に設置することが一つのコツです。この、遮断解除前に設置することをしばしば忘れてしまいがちなので、手術に入っているメンバーが当施設では必ず声に出して確認することにしています。また、遮断解除後に心室細動でない限りできるだけ早期にペーシングの閾値をチェックします。不安な場合は設置部位の位置調整をしたり、複数のペーシングリードを設置します。また手技中に誤ってペーシングが引っかかって外れたりしないように細心の注意も必要です。
万が一、ペーシングが必要な状態でペーシングリードが外れてしまった場合は心停止してしまいます。最初に行うのは、すぐに可能な範囲で心臓を刺激して脈が出るかどうか確認します。小さい術野から不十分な心臓マッサージでもその刺激で自己心拍が出ることもあります。また、DCパッドから対外ペーシングを行うことも有効です。また胸骨圧迫による心臓マッサージで圧がでるかどうかを確認することも必要です。人工心肺の回路の連結が残っていたら、人工心肺再開で循環補助することで次のステップに移れます。留置しているスワンガンツがペーシング機能付きであれば、ここからのペーシングでしのげますが、保険では心外膜ペーシングとペーシング機能付きスワンガンツカテーテルの併用は残念ながら神奈川県では保険で認められておりません。
この一連の緊急処置をしながら心外膜ペーシングの再設置を行うしかありませんが、それが難しい場合はペーシング機能付きスワンガンツに入れ替える、もしくは挿入する、または透視下で経静脈的ペーシングカテーテルを右室に設置する、という一連の処置を直ちに行う必要があります。それぞれ手技には準備に時間がかかりますので、その間をしのぐことが出来る対外ペーシングや心外膜ペーシングは非常に重要ですので普段から即座にそばにいる人がだれでも開始できるように除細動器やペースメーカーの操作方法を今一度確認しておくことが重要です。