横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

MICS-MVPにおける心筋保護の注意点:遮断不十分

2023-07-04 03:23:47 | 心臓病の治療
 MICSは小開胸アプローチで心臓手術をする関係で、視野が限られている中での心臓操作を行う手術であり、創が小さい、胸骨正中切開をしないという点から創部トラブルが少なく術後の回復がはやく早期退院が期待できます。
 一方で、視野が限定されるために特有のリスクがあるとも考えられ、それを熟知することが安全な手術につながります。MICS導入において最初に行われる手術の一つが僧帽弁手術ですが、この導入時の注意点では心筋保護に関するものも重要です。
 もちろん正中アプローチでも重要であることには違いませんが、特にMICSにおいては大動脈遮断が不十分だと心筋保護液を注入後も冠動脈へ甘い遮断から漏れた血液が冠灌流に回り、心静止が持続せず心電図波形が動き出します。こうした現象を見たらすぐに遮断不十分を疑って確認するべきです。遮断時に遮断が十分できているか確認してから心筋保護液注入を行うのも有効です。この確認方法は心筋保護液注入用のルートカニューラの側枝から血液が逆流してこないか確認することです。
 特にラバー付き鉗子のSignet鉗子は遮断する力が特に先端部が弱いため発生しやすいと考えられます。過去に何度か手術指導に伺った施設でこの事象が発生しており、早期に気づいたため遮断鉗子をかけなおしたり、遮断鉗子を追加してかけて事なきを得ました。
 発生の予防には右肺動脈の遠位側で遮断する場合は、大動脈の背側を出来るだけ剥離して遮断鉗子と大動脈の間に不要な組織を入れないようにすること、遮断鉗子の深さを十分入っているか確認することです。特に大動脈が太い症例は遮断不十分になりやすく注意が必要です。
 MICSにおける心筋保護の問題が学会でも話題になっていますが、心筋の冷却不十分、投与間隔が不十分、右冠動脈からのエアー注入、遮断時間が長すぎる、などがその原因として考察されていましたが、実は遮断不十分が原因であった可能性も考慮する必要があり、気づかずに行われていた、という可能性もあります。
 こうした危険に関しては可能性を認識して早く気付くこと以外に予防はありません。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする