感染性心内膜炎はいまだに死亡率の高い重篤な疾患で全身に敗血症を起こしている状態で手術するという、荒療治が必要です。シンプルな弁置換や弁形成で済む場合が半分以上ですが、弁の付着部にあたる弁輪部にまで感染が波及し、そこに膿瘍を形成していた場合は、人工弁を縫い付けることが出来ないので、手技的な工夫が必要になります。
前提として、完全に膿瘍を解放して感染巣を除去する必要があります。その上で、縫い付ける組織があるかの観察ですが、それによって次の対応が決まります。
①組織がしっかりしているのでそのまま糸掛する。
②自己心膜やウシ心膜で弁輪部を補強したところに、縫合糸をかける。
③人工血管などで新たな弁輪を作る。マヌギアン手術や、人工血管でのルート再建がこれにあたります。
④弁輪部の外から、弁輪や周囲組織を貫通させて縫合糸をかける。
この④の方法として、周囲の解剖学的位置関係などを熟知しておくひつようがあります。特に、左右冠動脈起始部よりも基部よりに縫合糸をかけるひつようがあるため、述中の的確な判断と工夫が必要です。無冠尖の部分はバルサルバ洞の外からかければいいのですが、右冠尖は、右室流出路や、主肺動脈を切開して、その内腔から縫合糸をかける必要があります。また、左冠尖は左房上壁などからかけなければならず、肺動脈からかけられるところの境界で左冠動脈回旋枝が背側に向かって横切るので、ここで損傷したり閉塞させるリスクがあります。