横須賀うわまち病院心臓血管外科

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臨床外科学会2024 シンポジウム 弁膜症MICSスタートアップにおけるピットフォールとその予防・対策

2025-02-13 09:45:01 | 心臓病の治療
 昨年宇都宮市で開催された日本臨床外科学会のシンポジウムで、MICSに対するトラブル予防および対策について発表依頼があり、当施設での経験をお話させていただいた。抄録は以下の通り。基本的なことではありますが、最近は他施設のスタートアップ指導に行くことが増え、実際にこうしたトラブルに遭遇する機会が増えています。やはり学会が勧告しているとおり、最初はプロクターの指導下での手術実施が望ましいと思います。以下、抄録です。

2016年から現体制でMICSを開始し、2018年から2023年において合計683例の心臓胸部大血管手術のうち217例(32%)、大動脈弁置換術の42%、僧帽弁形成術の72%、冠動脈バイパス術の43%にMICSを採用している。MICS不採用の主な理由は上行大動脈性状不良、肥満、複合手術、大血管手術である。安全を最優先とするため、人工心肺は送脱血路以外、直視下に正中アプローチと同じ方式でセットアップし、30℃に冷却して右肺動脈頭側で上行大動脈を心室細動下に遮断している。積極的に腋窩動脈送血を採用。心筋保護は基本的に順行性で、20分おきにエア抜きしながら注入。弁操作は正中アプローチと同じ手技とし、縫合糸結紮はCor-Knotを使用し時間短縮を図る。
大動脈遮断不十分によるリークがあると心筋保護液が効かず心静止維持が困難となるため、確実な遮断は重要。指導に行った施設で数多く、遮断不十分を経験しており、これに気づかないと重大な事故の原因になりうる。送血圧が上昇した場合は、送血路追加がすぐにできるように工夫された回路を使用している。視野が想定よりも低い肋間だった場合は、躊躇なく一つ頭側の肋間に変更し視野確保を優先する。心外膜ペーシング以外にスワンガンツペーシングを併用し、同時にDCバッドからの対外ペーシングできるようにしておく。麻酔科、人工心肺技師とのコミュニケーションを密にする。
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へき地ならではの経験がその後の外科医修練に役立つ

2025-02-13 09:38:23 | 心臓病の治療
昨年宇都宮で開催された日本臨床外科学会でのテーマは「地域に外科を」という主催の自治医大らしいフレーズになっており、その中のシンポジウムでへき地の医療を経験した後に心臓血管外科の世界に入った筆者にシンポジストの依頼がきました。この時の内容抄録をいかに提示します。最後に述べているとおり、なんでも情熱をもって飛び込むことが次につながる、ということです。

私は自治医科大学卒業後に秋田県の僻地病院に卒後3~8年目の6年間勤務した。外科医としての5年間、執刀可能な手術は胃・腸切、胆摘、アッペ、ヘルニアに限られ、自家麻酔で実施。安全性担保にこのレベルが適切と判断していた。他病院で手術研修させてもらう機会はモチベーション維持に役立ったが、見学をいくら重ねても自分の経験にはならず、自ら担当医として責任を伴って経験することこそが、意味のある修練と実感した。現在、見学だけならインターネットの情報で充分かもしれない。それより、都会では経験できない僻地ならではの医療をたくさん経験することこそが、その後の集中した外科トレーニングにおいて、医師個人の特技や武器として役立つことになる。多くの特殊な外傷治療経験に加えて、へき地では内科医としての仕事が主になりがちで、超音波検査を多く経験した。それに関連し、一般住民検診に合わせて腹部エコーによる腹部大動脈瘤健診を、研究費助成を得て実施した。この結果は、英文誌に投稿して掲載され、その後の心臓血管外科修練開始後に大学で同期入局者よりも先んじて助教に昇進させてもらい、より多くの術者経験を得るのに役立った。地域保健診療や、一見、外科とは無関係の経験がその後の心臓外科医としての修練に役立ったと実感している。共通しているのは、いずれも情熱を持って現場に飛び込んでいく精神が次の結果をもたらすということだ。
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MICS-CABG導入によりCABG件数が増加し、クオリティの維持に役立つ(冠疾患学会シンポジウムより)

2025-02-13 09:30:21 | 心臓病の治療
【目的】横須賀市立うわまち病院では2017年からMICS-CABGを標準術式とし、その後のCABG症例数、適応、術式の変遷、臨床的利益について検討した内容を、昨年12月の第37回日本冠疾患学会学術集会でのシンポジウムで発表しました。内容は、当施設で2017年10月から2024年7月までの単独CABG164例のうち、MICS−CABG84例と正中アプローチ80例を比較検討しました。
【MICS―CABGの適応と変遷】正中アプローチと同じデザインで血行再建できる依頼症例。低左心機能、末梢吻合部の性状不良は除外する。導入当初1/3の適応率が、2024年は92%にMICSアプローチを適応。グラフトはLIT
Aのみから静脈グラフトを経て動脈グラフト利用率が上昇しています。導入当初は1枝再建が多かったのが、2024年は8割で多枝再建となりました。再建枝数は正中アプローチ平均3.2に対しMICSでは2.6と少ないのは1枝再建症例が多いからと考えられます。標準退院日は正中を術後14日に対し、MI
CSでは8日と設定しています。安全確保のためIABPを積極利用している。
 MICSでは再建枝数が有意に少ないために手術時間は正中340分に比較しMICS255分と有意に短く、術後在院日数は正中17日に比較しMICS13日と有意に短縮していました。グラフト開存率、死亡率に有意差はありませんが、胸骨を切開しないMICSには縦郭炎の発生は見られませんでした。
 MICSはより軽症例でより選択される傾向にあるため術後成績が際立って良好に見え、循環器内科からのCABG依頼が増加傾向の好循環になると考えられました。
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