☆ 風蘭や大樹を風の吹きかよふ 櫂
☆ 風蘭に月落ちかかる軒端かな 櫂
風蘭はとても良い匂いがする。 白い可憐な花は夜になると芳香を放ち蛾などを誘うらしい。
木の幹に咲いた、この風蘭。親しい友人から電話がかかり、風蘭が、今は盛りと咲いて良い匂いだから、いらっしゃいよと言ってきてくれた。
大きな家の大きな客用の座敷の縁側に通された。古い槙の木の枝分かれした幹や、何か所もある枝に見事に花をつけていた。
辺りは良い匂いが咽るように漂っている。
特等席に座って 風蘭を愛でる。白い花もさることながら、一番のお茶受けはこの環境だ。
昔、仕事をしていた時。部長室に呼ばれた。部長室に呼ばれるなんて事はめったに無い。悪い話では無かった。 自慢になるからその時の話は秘密。30数年前の事。
ドアを開くと、大きな部長の机の上に小さな風蘭の鉢植えがあった。きっと、どなたか側近の方の差し入れだろう。良い匂いの時は部長の机の上。花期が終われば、側近の誰かが、持って帰って又手入れを重ねて来年も又咲かすのだろう。そんな思いが頭の中をくるくるとよぎった。
「風蘭ですか? よい匂いですね?」
部長に、おくすることも無く言った。
その頃は珍しい花だった。私ま名前を知っていたし、写真で見たことはあっても、実物の花、良い匂いに接したのは初めてだった。
「ああ、そうだよ、俳句をしているから知っていたか?」
そんな会話を今でも想い出す花だ。
会社に勤めた経験がある者は会社は縦割りの組織で、ペイペイの平社員は社長室や部長室は用事の無い場所。直接、呼ばれることなどめったにあるものでは無い。
侘び寂びの世界と別の 風蘭 の想い出。
🎐 風蘭のかをり纏ひて部屋出づる
およそ粋とは関係の無い句しかできない・