15年ばかり前に,紙作りに関する一冊の児童書を書きました。それが縁で,今も全国の子どもから質問の手紙や電話をもらうことがあります。うまくいった感想や,逆にどうしたらうまくいくのかといった質問が届くのは,書き手としてとてもありがたいことです。
先日も,出版社を経由してそうした問い合わせがありました。内容は,「夏休みの自由研究,スイカの実で紙を作りましたが,透明にならないばかりか,でこぼこしたものになってしまいました。おまけに,乾かしているうちにカビが生えてきました。どうしたらいいの? おじさん,教えて」というもの。編集者に手短く回答したあと,「『もし必要なら直接電話をください』と伝えておいてください」と付け加えておいたら,しばらくして電話がかかってきました。この子は神奈川県の小学4年生Hさん。
スイカを材料にした紙作りについては,これまで何度か子らに伝授してどれもうまくいきました。それで,聞き出す内容ははっきりしています。
やりとりしているうちに,Hさんはことば遣いがきちんとしていて,ポイントを伝えることがとても上手だということがよくわかりました。結果,やりとりがとてもスムーズにいきました。たとえば,材料を分解するために入れる重曹の量について「粉石けんのカップ一杯分を入れて煮ました」と即答したのですから。それで,わたしから聞き出すことはきちんと聞き出せ,理解できたようで,わたしとしても伝えるべきことは時間をかけずに伝えられたように思いました。
Hさんの紙作り法は初歩的なミスが重なっていました。木枠にネットを置き,そこにスイカを流し込んでそのまま乾燥させておいたのです。それも1cmほどの厚みで。
スイカの実にある繊維はほんとうに弱いので,弱いアルカリで短時間で分解しなくてはなりません。重曹の分量を控えることをアドバイスし,板に載せた木枠の中に直接繊維を流し込むよう話しました。ただし,厚みは5mm程度にして。じつは,今の時期だとカビが生えて当たり前なのです。それですこしでも早く乾かす手を伝え,複数枚作ってみるように伝えました。
成功すればそれはうれしい体験に違いありません。失敗したときは悔しい思い出になるかもしれませんが,そこから学びとる経験知が残ります。次回に活かせばよいのです。もっとも,そんなふうに息長く構えられればの話です。H少年には,「成功・失敗にかかわらず,結果を知らせて!」と話しておきました。さて,どうなることでしょう。