藤川だあ。
毎年のことだけど、何でクリスマスに法事をしなくちゃいけない。 今年はイブが休みなんだからその日にすりゃあいいのに、
「“身内”の法事だ、充分だ」
と、じいさんは吠えまくる。 “身内”って言ったって、どんだけの身内なんだ。
みんな勤めがあるだろうにと思うんだが、日本というのは今だにこういう上流階級への憧れと羨望と、あらがいきれないものを持っているのか、
「藤川家先々代の法事です。奥方様はさる高貴なお家のご出身で健在ですので、一族に連なる私も欠席するわけにはいかず…」
と言えば、あっさり休ませてくれるらしい。
こんなことで休ませるなっ、とおりゃあ言いたいね。
菩提寺の須庭寺(すていじ)には、“身内”と称する連中が集まってくる。が、不思議なことに若い奴らも大勢いる。
なんでクリスマスに来るか?と首を傾げていたら、
「みんなクリスマスに休みを取りたいんですよ。わかるでしょ?彼女とイブを過ごし、彼女を車に待たせて終わればまたどこぞに出かける、よくいえば、ひいおじいさまのクリスマスプレゼントですかねえ」
と、弟の実孝(さねたか)がしたり顔で言うではないか。
「罰当たりな奴らだな」
「他人のこと言えるんですか」
「少なくとも俺は、女をこういうところには連れてこないぞ、そういう常識はある」
「へ~」
実孝は疑り深い顔をして俺をみたが、
「硬派なヤンキーの兄貴のことだから、嘘ではないでしょ」
と、あっさり引き下がった。
「で、香華(きょうか)姉さんのことなんですけど」
「あん?」
香華とは二番めの姉のことだ。
「あのバカ元亭主、何とかなりませんかね」
離婚して半年たつというのに、まだ姉に未練があるのかここ1ヵ月つきまとっている。結婚生活は冷めていたというのに、今更何だと文句つけたい気分だ。今日も法事だというのに、嫌がる姉のそばでしつこく復縁を迫っている。
「堀内家も大変なバカ殿を持ったものだねえ、離婚して正解だったのかも」
「…」
「俺、別にかまわないですよ、あの緒方って先生。少なくとも法華姉さんの旦那よりマシだと思います」
と、実孝は笑った。
「そうか、おまえもそう思うか」
「兄貴、今、何考えているか、あててみましょうか」
じろりと俺は弟をみた。
「きっと、一緒だと思いますけど」
「そうか」
俺たち兄弟は顔を見合わせると、 人ごみの中を駆け抜けバカ元亭主の前に来るなり、
「いい加減にしやがれっ」
と、2人で思いっきりぶん殴ってやった。
けっ、ざまあみやがれっ。
毎年のことだけど、何でクリスマスに法事をしなくちゃいけない。 今年はイブが休みなんだからその日にすりゃあいいのに、
「“身内”の法事だ、充分だ」
と、じいさんは吠えまくる。 “身内”って言ったって、どんだけの身内なんだ。
みんな勤めがあるだろうにと思うんだが、日本というのは今だにこういう上流階級への憧れと羨望と、あらがいきれないものを持っているのか、
「藤川家先々代の法事です。奥方様はさる高貴なお家のご出身で健在ですので、一族に連なる私も欠席するわけにはいかず…」
と言えば、あっさり休ませてくれるらしい。
こんなことで休ませるなっ、とおりゃあ言いたいね。
菩提寺の須庭寺(すていじ)には、“身内”と称する連中が集まってくる。が、不思議なことに若い奴らも大勢いる。
なんでクリスマスに来るか?と首を傾げていたら、
「みんなクリスマスに休みを取りたいんですよ。わかるでしょ?彼女とイブを過ごし、彼女を車に待たせて終わればまたどこぞに出かける、よくいえば、ひいおじいさまのクリスマスプレゼントですかねえ」
と、弟の実孝(さねたか)がしたり顔で言うではないか。
「罰当たりな奴らだな」
「他人のこと言えるんですか」
「少なくとも俺は、女をこういうところには連れてこないぞ、そういう常識はある」
「へ~」
実孝は疑り深い顔をして俺をみたが、
「硬派なヤンキーの兄貴のことだから、嘘ではないでしょ」
と、あっさり引き下がった。
「で、香華(きょうか)姉さんのことなんですけど」
「あん?」
香華とは二番めの姉のことだ。
「あのバカ元亭主、何とかなりませんかね」
離婚して半年たつというのに、まだ姉に未練があるのかここ1ヵ月つきまとっている。結婚生活は冷めていたというのに、今更何だと文句つけたい気分だ。今日も法事だというのに、嫌がる姉のそばでしつこく復縁を迫っている。
「堀内家も大変なバカ殿を持ったものだねえ、離婚して正解だったのかも」
「…」
「俺、別にかまわないですよ、あの緒方って先生。少なくとも法華姉さんの旦那よりマシだと思います」
と、実孝は笑った。
「そうか、おまえもそう思うか」
「兄貴、今、何考えているか、あててみましょうか」
じろりと俺は弟をみた。
「きっと、一緒だと思いますけど」
「そうか」
俺たち兄弟は顔を見合わせると、 人ごみの中を駆け抜けバカ元亭主の前に来るなり、
「いい加減にしやがれっ」
と、2人で思いっきりぶん殴ってやった。
けっ、ざまあみやがれっ。