へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

タコ壺保健室のティータイム

2009-02-19 15:11:59 | へちま細太郎

はろ~べいび~こねこちゃんたち、藤川だよ~

3年生が自由登校になって、卒業も控えヒマになった俺は、タコ壺保健室に遊びにいった。
で、主…匿名希望の東山もヒマそうだった。
隣のカウンセリング研究所の怪しげな心理学者のおっさんもヒマそうだった。
園芸学部のおやじは、うちのサッカー部員と農作業にいそしんでいるらしく、きていない。
さすがに心理学のおっさんのいれたコーヒーは、酸味のきいた上等なキリマンで絶妙な味わい深さだ。
「僕はねえ、服装よりも食べ物に金をかけるんだよ。悪いがまずいインスタントコーヒーなんぞ飲みたくもない」
「悪うござんしたね」
タコ壺の主は、客にインスタントコーヒーしか出さない。もっとも、保健室に客なんてありえないんだが…。客が多いのは、隣のカウンセリング研究所で、このおっさんは、客に対してはインスタントコーヒーを出しているのを知っている。
どうでもいいことだが…。
「バカ殿は肉食動物だろ」
と、突然言われてビビったが、そうかこの間から話題になっている“草食男子”のことを話していたんだな、こいつらは、と悟った。
「否定しないね、悪いが自信はたっぷりだ
「その馬車馬のような馬力は、やっぱりなに、先祖の血?」
匿名希望の東山は、聴診器を振り回す。一度、失敬したことを、まだこの女は根に持ってんのか。
「伝説の55人の子持ち将軍の血をひいてるってきいたぞ」
「まあね、うちのひいひいひいばあさんが、そいつの娘だったんだ。おかげで幕末にはあちこちに子どもがばらまかれて大変だったんだ」
「そこいらじゅうに馬車馬が走りまわっていたら、困るからいいかげん打ち止めにしてくれや。というか、おまえ、よくご落胤が出てこないな」
この心理学者は、ずけずけものを言うわ、下ネタ大好きだわ、始末におえねえな。
「そこんところはうまいもん、種馬はよき牝馬を選ぶからな」
「早くご正室様を選ばないと、種もつきるぞ」
「余計な御世話だ」
心理学者は、新たにコーヒーを入れ直すと、かばんからナポレオンのボトルを取り出し、
「文字通り、カフェロワイヤル」
と、スプーンに角砂糖を置き、ブランデーをたらして、
「点火」
と、勝手にほざいて角砂糖に火をつけた。
悔しいが、留学経験の長さと学者である豊かな教養は、この育ちのいい?俺でも負けている。
「タコ壺はいつでもこうなのか?優雅だな」
「学生もこないし、高校の3年もこないし、今が一番暇な時期だね~。かわいそうなのは中学と高校の保健室だろうけど」
「大学は?」
「マッドサイエンティスト中島の手伝いをさせられて、薄気味の悪い蘭の世話をさせられているよ」
「げっ」
俺は、今だにこの部屋におかれている、あのドドメ色の蘭を振り返った。俺に睨まれて、蘭はブルブルっと身震いした。
「いつか、ぶったぎってやろうかな、こいつ」
と、冗談を言ったら、
「なんだともう一度、言ってみろ、この暴れ馬キノコ野郎
と、勢いよくドアを開けてマッドサイエンティスト中島教授が顔を出した。
「あらわれたな、怪人
俺より早く心理学のおっさんが立ち上がり、犬猿の仲の二人のどつきあいが始まったのであった。
優雅なティータイムは、どこに消えたんだ…しくしくしく