またもや、藤川ですが、文句あっか?
前回までの話は昨日までのこと。
浜中から、
「結婚する、決まった」
と、ラインがきて、俺は発狂寸前だ。
「なんで、俺だけがああああ」
「男は四十にして惑わずだよ」
餅つきに精を出す義兄のけんちゃんに、素っ気なく言われてますます落ち込む。
「タイミングだな」
餅をこね回す、もう一人の義兄ののぶちゃんにまで言われると、絶望に陥る。
「米津玄師って知ってっか?」
「あ?なんだ唐突に」
おっさんぶりが際立ってきた二人に「Flamingo」を聞かせる。
「意味不明だ」
「演歌か?いや、お神楽か?」
どこをどーきけば演歌に聞こえるんだのぶちゃんよ。
「これを聴いて浜中はプロポーズしにいった」
「あ?」
「なんだ、そりゃ」
二人とも、餅をこねる手を止めて不可解な表情になったが、
「やっぱり、勢いだな」
けんちゃんは、そういって餅を丸める。
「やっぱり、民謡か?」
のぶちゃん、あんたって人は、ファンに聞かれたらどつかれるだけじゃすまされんぞ。
しかし、聴いたら耳からはなれん曲だ。
意味わからんが、中毒になりそうだ。
浜中です。
広之から紹介された彼女に二股かけられて、おじさんをバカにするのもたいがいにせえと思ったんだが、どういうわけか「Flamingo」の曲を聴いて何やらピンとくるものがあった。
「どーしたの」
久保田が、スマホの動画にうつる赤ん坊の写真を俺にみせつけながら、俺の表情をどうとったのか、
「若い歌うたいの曲が理解できないくらいで、悩むことないじゃんか」
とのたまわってきやがった。
「黙れ、この野郎」
俺は、あっけにとられる藤川や広之の視線をそのまま返して、
「プロポーズしてくる」
と、言い捨ててそのまま別宅を後にした。
タクシーを拾って、彼女のアパートに駆け込んで、
「結婚してくれ」
と、ドアがあくなり叫んでいた。
「何をいきなり」
彼女は大掃除のジャージ姿そのままに、立ちすくんでいたが、
「ATMの覚悟できてる?」
と、返してきた。
「馬鹿野郎、豪邸ぐらい建ててやるわい」
「結婚する!プロポーズ待ってた」
二股なんて嘘に決まってる。俺がバカなだけだったんだ。
「やったあ」
ジャージ姿の彼女は、どんなドレスよりよく似合っていたぞ。
と口にしたら、ビンタをくらったが、許してやるぞ~。
藤川だ。
クリスマスから居座る浜中に加えて、嫁にたたき出された広之と久保田もやってきた。
「おまえら揃いもそろって何してんだ?」
久保田は子供が生まれたばかりで、嫁が里帰りして帰ってこないそうだ。
「いやあ、たたき出されたわけじゃなくて、大事な娘に風邪がうつっちゃいけないと思って」
「おめえ風邪ひいてんのか?」
「ひいてないけど」
あーそ。
「そういや、あんた二股かけられてたんだって?」
久保田は、持参したフライドチキンをかじりながら浜中に話題を向ければ、
「俺はATMで、体力は若い方の役割だってさ」
「なんじゃいそれ」
浜中は、DVDの見過ぎで目を充血させているが、新たにハリーポッターを手に取った。
テレビのCMでは、米津玄師の「Flamingo」が流れた。
「この曲いいなあ」
広之がとイマドキの曲を誉めつつ、浜中をちらみする。
「なんだよ」
むっとした浜中だが、
「彼女、いい女だったろーが」
「それほどでもねえが、あんたの紹介する女って、なんでみんなド派手なの?」
「そりゃ、こいつは元ヤンだからな」
「あーそ」
広之は、別に否定する様子もなく、
「今の若い教師なんてあんなもんだけど、30前後だから調度いいと思ったんだけどね」
と、紹介した女が公立の教師だったとここで初めてわかった。
「教師なんて地味で眼鏡女子だなんてAVだけの話。やっちまえばこっちのもんだと思うだろうが、ふつうの女性なんだけどね。あんた、何を期待したの」
「いや、別に」
スマホからさっきの曲を流し始めて、
「こういう曲をきいて努力しなよ」
と、さも若いっぷりをさらすが、俺は初めてだ。
「なんじゃ、この曲、意味不明だ」
「だからいいんじゃないか」
久保田も首をかしげる。
「わからん」
「田舎の神社の神楽の舞台が浮かんだぞ」
浜中は、腕組みをして首を傾げた。
「神社の神楽とはまた」
「でも、イメージとしてはそうじゃね?」
「いや、俺は女郎に手玉に取られた哀れな男の話に聞こえるが」
どんだけ飲み屋のねーちゃんに騙されてきたんだ。
「う~ん」
浜中は、何やらうなり始めた。
「わからん、わからんぞ」
「だ~から、振られるの、わかった?」
広之は、セブンで買ってきたアメリカンドッグの2本目に取り掛かる。
「わかりたくもね~が」
俺は、広之のスマホをとめて放り投げ、
「ハリーポッターにいくぞ」
と、DVDのスタートボタンを押した。
おいおい、浜中、何考えこんでいるんだ?
藤川だ。
冬休みに入り、法事があったが、副住職のおっさんはケガで欠席してた。
なんでケガしたかって?知るかい。
で、今年は一人寂しく俺は家でDVDを見ていたが、
「まあ、たまったDVD見るのも悪くないんじゃない?」
と、なぜか浜中も来ていて、
「クリスマスっていえば、これでしょう」
ホームアローンをとりだしてみはじめた。
「おまえね、こないだできた彼女どーしたの?」
「振られたってか、二股かけられてた、俺より若いのと」
「おっさんだもんな、仕方ないね」
「クリスマス、ふたりぼっち」
空しく笑い、フライドチキンならぬ名古屋名物手羽先を酒の肴にしつつ、おっさんふたりでDVDを片っ端から見続ける。
「思うんだけど、この強盗、こんなにされてよく死なないな」
ホームアローンの間抜けな強盗のたくましさに、なんだかほっとしつつまたも手羽先をぱりっとまわして食べる。
「頭悪そうだしなあ」
「ていうかさ、このマカリスターパパ、金持ちだね」
「クリスマスに兄家族含めて10人以上、パリだフロリダってどんだけ大名旅行なんだ」
「スケールが違うな」
あり得ない内容だけど、マジ面白すぎだな、この映画。
「ほんと、よく死なねえよ」
まったくだ。。。