何が悲しくて母親とクリスマスを過ごさねばならないのか…。
でも、まあ、いいか、付き添い旅行だからあごあしつきだし。
クリスマスは本来恋人と過ごす日じゃないしね。
俺には、二人の姉がいる。
上の度派手な姉は、俺の苦手なうどの大木野郎とできちゃった結婚をし、下の姉は出戻ったあげくかつての天敵と恋愛中…だった。
とそんなわけで、最近ついてねえなあ、とため息の毎日の藤川だ。
とほほ。
で、年末にあたり俺は両親に頼まれて、年末の挨拶に棒斐浄寺に学校のかえりがけにたちよるハメになった。
現当主の親父は、竹刀や木刀を振り回し暴れん坊将軍と化した暴力じじいの息子のわりには、ダンディに決め込みやさしげな一見紳士風だ。が、このおやじも俺同様に、この棒斐浄寺の尼さんが苦手なんだ。
当代の尼さんは未だ娑婆っ気が抜けず、いろんなことに首をつっこむのが大好きときている。
あのいまいましいウドの大木野郎もこの尼さんとは、大変に仲が良い。
実にいい迷惑だ。
ところで、棒斐浄寺はつくばった山の裏側にへばりつくようにある、俺の家のもと別荘である。江戸時代に尼寺になり、現在にいたっているが、別荘時代の名残で今も名勝庭園として有名だ。
冬のたそがれ時からすっかり太陽が落ちて、田舎の山に囲まれた地域はかなり暗い。道幅も狭くなり街灯もあるかないかだ。
と、そんな車のヘッドライトだけが頼りな山道を行くと、はるか前方にこの間がくれにピカピカと光るものが見えてきた。
なんだ?
俺は、用心しつつ棒斐浄寺に通ずる道を入った…ああ、なんじゃありゃあ
何で、こんなところにイルミネーションが輝いている
棒斐浄寺の山門の前は、かつて別荘の名残をとどめているが、そこの広場になんとイルミネーションが煌々と輝いていたのだ。
ああ、あれはだ、
だ。
なんで、があるっ
おおい、ここは寺だろっ
何考えてんだ、あの生臭坊主
ばちあたりめっ
「で、アゴの兄ちゃんがどうしたって?」
「タクシー運転したんだってよ、飛行機に間に合わないから」
「すげえな」
「で、つかまった?」
「なんで…」
「なんでって…」
「アウトバーンとはいえ、どんだけスピード出したんだって」
「知らねえなあ」
「まあ、運転はうまそうだが、命の保証はできねえよな」
「何で…」
「だからよ、ついこないだまで、新幹線以上の速さで車を運転していたやつが、普通の車を運転したら、こわいべ」
「そりゃそうだ」
新幹線より速いスピードで車を運転してたって?
ひえええええ。
どんだけの速さか見当がつかないぼく、へちま細太郎でした。
「小さいけれどぉ~」
「何歌ってんだ、おめえ…」
「『ガリレオ』の間にやってるCMの歌」
「ああ、あれかあ、あれだっぺよ、ちょんまげのズラかぶったやつが出てる…『しょうしゅう~しょうしゅうプラグ~』っていうやつ」
「妙に耳についちゃって、気がつくと歌ってんだよ」
「わかるわかる」
「んでよ、あんまり耳についちゃったから、買ってきちゃった」
「バカかおめえ」
こんなこと、よくあるよね。
バカ息子はやっぱり私の子だわ。DNAがおんなじ~
否定できないから悲しい~、おばあちゃんでした。