(1)中国は国防費を急増させ、必死で軍艦を造っているような印象が日本にはあるが、実際はどうか。
中国の国防費は2,979億元(2006年)から9,543億元=14兆円余(2016年)に。10年間で3.2倍。だが、中国のGDPは2005年から2015年までの10年間に3.7倍、歳出は6.4倍だから軍拡に必死というわけではない。抑制が利いているほうだ。日本の高度成長期、1970年から80年にはGDPが3.4倍、防衛予算は3.9倍になった。急成長した他の国々でも同じ現象が起きた。税収、予算が拡大すると軍への分け前も増えるのは自然の勢いだ。
(2)中国だけが特別ではないとしても海軍の増強は事実ではないか。
数的には中国海軍はこの10年間で潜水艦が58隻から61隻(うち旧式15隻)になり、駆逐艦は27隻から19隻に、それより小型のフリゲートは44隻から54隻(うち旧式22隻)になった。かつては何百隻もあったミサイル艇、魚雷艇を整理して、代わりにコルベットを18隻建造している。
潜水艦、水上艦とも旧式を廃棄しつつ、新型を入れているが、装備の更新は、よほど貧しい国は別としてどの国の軍も行うことだ。「近代化による戦力向上」は他国でも起こるから、基本的には相殺される要素だ。
中国海軍の近代化は日本、韓国、台湾などに比べてひどく遅れ、いまやっと追いつきつつあるが、技術的に課題が多い。建造中の艦から数年先を見通せば、数的には微増だろう。
(3)中国海軍が米海軍に対抗し、西太平洋やインド洋で海上覇権を狙うという人もいるが。
米海軍相手ではまったく勝負にならない。空母は「遼寧」はJ15戦闘機約20機を搭載できるが、それを発進時に加速する装置「カタパルト」は米国しか造れない。それがないから戦闘機はミサイル、爆弾を少しだけ付けるか、燃料を減らしてやっと発進できる。艦載の空中早期警戒機も、運用できない。米海軍の原子力空母10隻(近く11隻になる)は戦闘攻撃機F/A18を55機搭載できるから、計600機に対しJ15が20機程度では話にならない。ほかにも空母を建造している様子だが、「カタパルト」はないようで、外洋では米空母と対決すれば単なるカモだ。外洋で制空権をとれないから、中国の水上艦は戦時に地上基地戦闘機の行動半径1,000kmから出れば全滅は必至、いわゆる「第一列島線」を超えて出られないだろう。
(4)中国は精密誘導が可能な弾道ミサイルを開発し、それで陸地から米空母を狙うとも言われている。
空母の位置、針路、速力をリアルタイムで知るのは容易ではない。偵察衛星は時速27,000kmで各地上空を1日に約1回通過するだけだから移動目標はつかめない。偵察機や潜水艦で空母を発見し、陸上のミサイル基地に通報して発射させるなら、発見から弾着まで30分ほどかかるだろう。その間に空母は20kmほど移動するし、針路を変えることもあるので狙えない。航空機や潜水艦から対艦ミサイルを発射するほうがよほど現実的だ。
(5)米空母の近くに中国の潜水艦が浮上、「音が低い中国潜水艦は脅威だ」と騒がれたことがある。
「通常推進」型の潜水艦は浮上してか、または吸気筒を海面上に出し、ディーゼル機関で走って蓄電池に充電し、潜行中は電気モーターで走るから、原子炉を積む原潜より潜行中の音が一般的には低い。空母が通る地点に、低速でひそんでいると発見しにくいのは当然だ。しかし、水中を高速で走るとすぐに電池がカラになるから空母を追いかけることはできず、待ち伏せにしか使えない。
中国は実用になる艦船攻撃用の原潜2隻と、通常潜水艦39隻を持っているが、原潜は旧ソ連が1970年代に造った「ヴィクターⅢ」がモデルで、なお音が大きいようだ。
米、英海軍と海上自衛隊は冷戦時代に400隻近い旧ソ連潜水艦隊を主な仮想敵としていたから、潜水艦の探知技術や、懐中での音波の伝播状況を研究する「水中音響学」が非常に発達し、旧ソ連とは大差があった。中国海軍はロシアとフランスの技術を取り入れているから、相手の潜水艦を探知するソナーの技術は低いようだ。P3Cのような対潜哨戒機もほとんどないし、駆逐艦の艦載ヘリも小型で対潜水艦作戦能力は乏しいから、米、日の潜水艦には対抗できないだろう。
(6)それでも「米中衝突」を予測する議論が多い。
中国は中東からの原油の第一の輸入国で、他の資源も大量に輸入する最大の貿易国家だ。世界的な制海権を握る米海軍に対抗し、インド洋などの長大な通商路を守ることは不可能だから、経済が発展するほど、米国とは協調せざるをえない。
米国にとっても、中国からの投資、融資や中国市場は不可欠だから、大局的に見れば両国衝突の要素はない。
(7)しかし、南シナ海で中国が人工島を造り、要塞化を進めているのは何のためか。
海南島に中国の弾道ミサイル原潜4隻の基地がある。米海軍は万一に備えてその「音紋」を収集したり、海中の音波の伝播状況のデータを蓄えようと努める。中国は、それを妨害しようと人工島の基地を築いている。米国のいう「航行の自由」とは、実は「偵察の自由」なのだ。日本にとり二台輸出市場である米中がもし武力紛争を起こせば、双方の経済は大混乱、日本の経済に致命的打撃となり、尖閣諸島とは比較にならない。日本が米中の対立を助長するのは愚策だ。
(8)尖閣や離島が中国に「占拠」されたら、自衛隊が奪還するという構想を描いているようだが。
南シナ海正面の中国東部戦区は「台湾正面」だから、戦闘機約400機(6割は新型機)が配備され、尖閣はゆうにその行動半径だ。自衛隊は那覇に40機だから、決め手となる制空権の確保が難しい。
日本が制空権をとれるようなら中国は攻めてこないし、中国軍が奇襲上陸しても補給が切れて全滅する。
日本が制空権をとれないようなら、水陸両用車「AAV7」やオスプレイを買い、「水陸機動団」による逆上陸を考えるのは、自殺行為、頓珍漢な戦略だ。
□語り手:田岡俊次(軍事評論家)/聞き手と構成:成澤宗男(編集部)「中国脅威論の「虚」と「実」」(「週刊金曜日」2016年7月22日号)
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中国の国防費は2,979億元(2006年)から9,543億元=14兆円余(2016年)に。10年間で3.2倍。だが、中国のGDPは2005年から2015年までの10年間に3.7倍、歳出は6.4倍だから軍拡に必死というわけではない。抑制が利いているほうだ。日本の高度成長期、1970年から80年にはGDPが3.4倍、防衛予算は3.9倍になった。急成長した他の国々でも同じ現象が起きた。税収、予算が拡大すると軍への分け前も増えるのは自然の勢いだ。
(2)中国だけが特別ではないとしても海軍の増強は事実ではないか。
数的には中国海軍はこの10年間で潜水艦が58隻から61隻(うち旧式15隻)になり、駆逐艦は27隻から19隻に、それより小型のフリゲートは44隻から54隻(うち旧式22隻)になった。かつては何百隻もあったミサイル艇、魚雷艇を整理して、代わりにコルベットを18隻建造している。
潜水艦、水上艦とも旧式を廃棄しつつ、新型を入れているが、装備の更新は、よほど貧しい国は別としてどの国の軍も行うことだ。「近代化による戦力向上」は他国でも起こるから、基本的には相殺される要素だ。
中国海軍の近代化は日本、韓国、台湾などに比べてひどく遅れ、いまやっと追いつきつつあるが、技術的に課題が多い。建造中の艦から数年先を見通せば、数的には微増だろう。
(3)中国海軍が米海軍に対抗し、西太平洋やインド洋で海上覇権を狙うという人もいるが。
米海軍相手ではまったく勝負にならない。空母は「遼寧」はJ15戦闘機約20機を搭載できるが、それを発進時に加速する装置「カタパルト」は米国しか造れない。それがないから戦闘機はミサイル、爆弾を少しだけ付けるか、燃料を減らしてやっと発進できる。艦載の空中早期警戒機も、運用できない。米海軍の原子力空母10隻(近く11隻になる)は戦闘攻撃機F/A18を55機搭載できるから、計600機に対しJ15が20機程度では話にならない。ほかにも空母を建造している様子だが、「カタパルト」はないようで、外洋では米空母と対決すれば単なるカモだ。外洋で制空権をとれないから、中国の水上艦は戦時に地上基地戦闘機の行動半径1,000kmから出れば全滅は必至、いわゆる「第一列島線」を超えて出られないだろう。
(4)中国は精密誘導が可能な弾道ミサイルを開発し、それで陸地から米空母を狙うとも言われている。
空母の位置、針路、速力をリアルタイムで知るのは容易ではない。偵察衛星は時速27,000kmで各地上空を1日に約1回通過するだけだから移動目標はつかめない。偵察機や潜水艦で空母を発見し、陸上のミサイル基地に通報して発射させるなら、発見から弾着まで30分ほどかかるだろう。その間に空母は20kmほど移動するし、針路を変えることもあるので狙えない。航空機や潜水艦から対艦ミサイルを発射するほうがよほど現実的だ。
(5)米空母の近くに中国の潜水艦が浮上、「音が低い中国潜水艦は脅威だ」と騒がれたことがある。
「通常推進」型の潜水艦は浮上してか、または吸気筒を海面上に出し、ディーゼル機関で走って蓄電池に充電し、潜行中は電気モーターで走るから、原子炉を積む原潜より潜行中の音が一般的には低い。空母が通る地点に、低速でひそんでいると発見しにくいのは当然だ。しかし、水中を高速で走るとすぐに電池がカラになるから空母を追いかけることはできず、待ち伏せにしか使えない。
中国は実用になる艦船攻撃用の原潜2隻と、通常潜水艦39隻を持っているが、原潜は旧ソ連が1970年代に造った「ヴィクターⅢ」がモデルで、なお音が大きいようだ。
米、英海軍と海上自衛隊は冷戦時代に400隻近い旧ソ連潜水艦隊を主な仮想敵としていたから、潜水艦の探知技術や、懐中での音波の伝播状況を研究する「水中音響学」が非常に発達し、旧ソ連とは大差があった。中国海軍はロシアとフランスの技術を取り入れているから、相手の潜水艦を探知するソナーの技術は低いようだ。P3Cのような対潜哨戒機もほとんどないし、駆逐艦の艦載ヘリも小型で対潜水艦作戦能力は乏しいから、米、日の潜水艦には対抗できないだろう。
(6)それでも「米中衝突」を予測する議論が多い。
中国は中東からの原油の第一の輸入国で、他の資源も大量に輸入する最大の貿易国家だ。世界的な制海権を握る米海軍に対抗し、インド洋などの長大な通商路を守ることは不可能だから、経済が発展するほど、米国とは協調せざるをえない。
米国にとっても、中国からの投資、融資や中国市場は不可欠だから、大局的に見れば両国衝突の要素はない。
(7)しかし、南シナ海で中国が人工島を造り、要塞化を進めているのは何のためか。
海南島に中国の弾道ミサイル原潜4隻の基地がある。米海軍は万一に備えてその「音紋」を収集したり、海中の音波の伝播状況のデータを蓄えようと努める。中国は、それを妨害しようと人工島の基地を築いている。米国のいう「航行の自由」とは、実は「偵察の自由」なのだ。日本にとり二台輸出市場である米中がもし武力紛争を起こせば、双方の経済は大混乱、日本の経済に致命的打撃となり、尖閣諸島とは比較にならない。日本が米中の対立を助長するのは愚策だ。
(8)尖閣や離島が中国に「占拠」されたら、自衛隊が奪還するという構想を描いているようだが。
南シナ海正面の中国東部戦区は「台湾正面」だから、戦闘機約400機(6割は新型機)が配備され、尖閣はゆうにその行動半径だ。自衛隊は那覇に40機だから、決め手となる制空権の確保が難しい。
日本が制空権をとれるようなら中国は攻めてこないし、中国軍が奇襲上陸しても補給が切れて全滅する。
日本が制空権をとれないようなら、水陸両用車「AAV7」やオスプレイを買い、「水陸機動団」による逆上陸を考えるのは、自殺行為、頓珍漢な戦略だ。
□語り手:田岡俊次(軍事評論家)/聞き手と構成:成澤宗男(編集部)「中国脅威論の「虚」と「実」」(「週刊金曜日」2016年7月22日号)
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まァ、現宰相は「チキン」だから戦争にはならない、と思うが次の奴は分からん。何仕出かすか分からん奴が首相に成らない事だけを祈るしかない、、。新次郎チャン石破抑えてくれな(笑)新次郎でも変わらんか、、。
本当はフランケン岡田や志位さんなら、戦争には絶対にならないと思うだがなァ、、。但し、米国との間がギクシャクくらいじゃ済まない(悲)日米安保は必要悪だと思ってるので、日米地位協定の運用を事務屋から取り戻して、国民の為になる運用にしてくれるだけでイイんだが(heart)