語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【東芝】不正経理の闇(2) ~原発メーカーの経営危機~

2015年09月07日 | 社会
 (承前)

 (7)ウェスチングハウスは、もともと総合電機メーカーだった。米国では、ベクテル(エンジニアリング/建設会社)やストーン&ウェブスターなどと組んで40基以上の原発を造った。
 スリーマイル島原発放射能漏れ事故(1979年)で米国内の新規原発建設が止むと、ゼネラル・エレクトリック(GE)と同様、原子炉の製造から手を引いた。ライセンスを握って、三菱重工に原子炉を造らせて、技術料を取る形に転じた。
 1990年代、経営が傾いたウェスチングハウスは、解体して売却された。原子炉部門は1999年に英国燃料会社(BNFL)に売却され、WECと改称した。
 この時期、英国政府所有のBNFLは、北朝鮮の原発2基を受注したスイスの重電大手ABB(旧アセア・ブラウン・ボベリ)の原子力事業を2000年に買収し、WECと統合した。
 そのABBで「唯一の米国人役員」だった人物こそ、ブッシュ政権で国防長官を務めるドナルド・ラムズフェルドだった。彼はイスラエル寄りのネオコンの代表格だ。
 WECを背負ったBNFLの経営は行き詰まった。2億ポンド(400億円)以上の営業赤字を出し、WEC放出を決めた。買収の相場は2,000億円、高くても3,000億円だと言われていた。三菱、GE、ショー・グループ(ストーン&ウェブスターを所有)も入札に参加。最終的に東芝が巨費を投じて入手した。

 (8)買収を先導したのは、西田厚聰・社長(当時)だ。彼はなぜ斜陽化したWECに手を出したか。
 国内の原発建設が先細り、世界に出たい東芝は加圧水型原子炉(PWR)が欲しかった。世界の原発シェアの7割がPWRだからだ。とくに最新型のAP1000。まだ商業運転されていないが、自然循環で熱を取り除けて安全性が高い、と中国も導入に熱心だった。しかし、WECと一緒にAP1000を開発してきた三菱は怒り狂った。GEも腹を立てた。東芝の「選択と集中」だけで成功する案件ではなかった。【原子力機関の幹部】

 (9)日米両政府のキーパーソンがバックアップした。
 ラムズフェルドが国防長官に就いたブッシュ政権は、包括エネルギー法を2005年に成立させた。その目玉は、札束で電力会社の頬を叩く原発推進策だ。新規の原発建設への「融資保証」「損失補償」「生産税の控除」などが並ぶ。たちまち十数基の新規建設プランが持ち上がった。これが米国の「原子力ルネッサンス」の実態だった。
 東芝は、米国政府への働きかけを強めた。ワシントンで影響力を持つハワード・ベーカー・元駐日大使にロビー活動を委ねた。ベーカー元大使は「自衛隊イラク派遣」で日米間の調整をした人物だ。
 東芝は、さらに米財界とのパイプ役に大物OBの西村泰三を指名した。
 ネオコン、元駐日大使、ユダヤ系投資銀行、東芝の国際派社長と大物OB・・・・に加えて、日本側の調整役も決まった。柳瀬唯夫・資源エネルギー庁原子力政策課長(現・経済産業省産業政策局長)が「原子力立国計画」をまとめて調整に奔走した。
 日米が持ついろいろな支援策を、実際のプロジェクトに米国側がどのリスクをファイナンスし、日本側がどのリスクをとるのか、とか、そういうことを政府間で調整したのだ。【柳瀬局長】
 ロシアに対抗する力を持つために、カザフスタンは原子力大国の日本と組みたいということで、日本原燃、東芝、その牛のウェスチングハウス、こういったところに原子炉導入の支援をしてもらいたい、そういうことだ。【同】

 (10)かくして内堀、外堀が埋められ、WEC買収は完了した。東芝の子会社になったWECは、
   2007年 中国の三門原発、海陽原発各2基
   2008年 米国のボーグル原発、V・Cサマー原発各2基
   2009年1月 レヴィ・カウンティ原発2基
合計10基の「AP1000」を立てつづけに受注した。
 ブッシュに次いで大統領に就いたオバマはシカゴの「原発人脈」とつながっていて、新規建設を後押しした。米国は30年ぶりに新しい原発が建設されるとメディアは騒ぎ立てた。

 (11)東芝は、資源エネルギー庁の海外展開に足並みをそろえてWECの10%をカザトムプラム(カザフスタンの国営企業)に売った。
 原発ルネッサンスに国際的原子力シンジケートは浮き立った。
 しかし、実績のないAP1000の建設は手探り状態だ。
 レヴィ原発は、WECが7,300億円で受注直後、米原子力規制委員会(NRC)の建設・運転一括認可(COL)が想定期限内に取得できないことが判明。20ヶ月の計画遅延が発表され、その後、契約が解除された。
 契約形態にもよるが、実績のない原発を造るのは難しい。中国は技術を握りたいから、プロジェクトの分割発注をしがち。すると、マネジメントがネックになる。実際に部品がダメなら手を打ってドラスチックに変えないといけない。全体をコントロールできるエンジニアリング部隊が必要だが、中国にはまだ無理。非常に危険。【後藤政志・元東芝原子炉設計者】

 (12)2009年2月、東芝は、サウス・テキサス・プロジェクトで自ら手がけてきた改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)2基の建設契約を米国の電力事業者と交わした。東京電力を巻き込んで、発電所の運営までカバーする大プロジェクトだった。
 だが、福島第一原発事故で、原子力ルネッサンスは吹き飛んだ。
 東電はプロジェクトから撤退し、電力事業者も下りた。
 事故後に引き上げられた安全基準を満たすには多額のコストがかかる。東芝は、株購入時の権利をショー・グループに行使され、1,250億円を投じて20%の株を買い取った(2013年)。弱り目に祟り目。
 ショー・グループは、その後、CB&I(エンジニアリング系建設会社)に買収された。WECの相棒、ストーン&ウェブスターは寄生相手を変えて生き延びている。

 (13)いまや原子炉メーカーの経営危機は東芝だけの問題ではでない。 
 アレバはフィンランドの新型原発の建設で巨額の損失を出し、仏政府に救済された。
 原油価格に連動して天然ガス価格も下がり、火力の優位性が一段と高まっている。
 イメルト・GE・CEOは、原発を経済的に「正当化するのは非常に難しい」と見切る発言をした。
 今後、米国証券取引委員会(SEC)が動けば、東芝は追いつめられる。唯一、東芝にとっての救いは、これが脱原発のチャンスであることだ。

□山岡淳一郎(ノンフィクション作家)「東芝不正経理の闇と国際原子力シンジケート」(「週刊金曜日」2015年8月28日号)
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 【参考】
【東芝】不正経理の闇(1) ~国際原子力シンジケート~
【読売】「不正」を隠蔽する「不適切」という表現 ~東芝・不正経理~
【古賀茂明】東芝の粉飾問題 ~「報道の粉飾」~
【社会】大政翼賛社会の不気味さ ~東芝問題と「ゆう活」~
【東芝】「不正会計」の主役は安倍ブレーン ~産業競争力会議の犯罪者~


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