語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【詩歌】中野重治「豪傑」

2015年07月03日 | 詩歌
 むかし豪傑というものがいた
 彼は書物を読み
 嘘をつかず
 みなりを気にせず
 わざをみがくために飯を食わなかった
 うしろ指をさされると腹を切った
 恥ずかしい心が生じると腹を切った
 かいしゃくは友達にしてもらった
 彼は銭をためるかわりにためなかった
 つらいというかわりに敵を殺した
 恩を感じると胸のなかにたたんでおいて
 あとでその人のために敵を殺した
 いくらでも殺した
 それからおのれも死んだ
 生きのびたものはみな白髪になった
 しわがふかく眉毛がながく
 そして声がまだ遠くまで聞こえた
 彼は心を鍛えるために自分の心臓をふいごにした
 そして種族の重いひき臼をしずかにまわした
 重いひき臼をしずかにまわし
 そしてやがて死んだ
 そして人は 死んだ豪傑を 天の星から見わけることができなかった

□中野重治「豪傑」(『中野重治詩集』(岩波文庫、1978))
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