語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【佐藤優】戦艦「信濃」を知っているか ~戦争こそ必須の教養~

2016年09月29日 | ●佐藤優
佐藤優/立花さん、(『ぼくらの頭脳の鍛え方』のブックリスト2に)軍事モノを多く入れていらっしゃいますね。
立花隆/ええ。日本では割と軍事の知識を軽く見る人が多いんですが、歴史を見る上で軍事の知識は欠かせません。すごく面白かったのは、『「信濃!」--日本秘密空母の沈没』(J・F・エンライト、J・W・ライアン/光人社NF文庫/立花113)です。
佐藤/「信濃」は、戦艦「大和」「武蔵」に続く、三番艦ですね。
立花/そうです。戦艦として信濃の建造が始まりましたが、戦局が変化したために航空母艦に作り替えられた。戦艦としての時代は終わりを告げ、パールハーバーとともに航空戦の時代が幕をあけたことがはっきりしたからです。
佐藤/信濃は当時、世界最大の空母でした。
立花/横須賀で建造されていたんですが、空襲を避けるため、完成しないうちに呉へ向けて出航した。呉海軍工廠で、艤装(原動機や各種装備の取りつけ工程)や兵装(機銃などの兵器の取りつけ工程)をすることになっていた。
佐藤/その途中に沈没した。
立花/伊豆半島の南側です。そのあたりはアメリカの潜水艦がウヨウヨしていたから、昼間は通れない。夜に回航するんですが、発見されて、魚雷を4発喰らって沈没した。
佐藤/私は子供のころ、当時発売されたばかりの信濃のプラモデルを買いました。ところが本を買うと言ってもらったお金でそれを買ったものだから、母親にずいぶん怒られた(笑)。
立花/へえ、そんなプラモデルがあったんですね。
佐藤/1970年前後、私の子供時代はちょうどプラモデル全盛期だったんですよ。
立花/信濃の沈没後、若干名いた生存者はすぐ病院に収容されて外部と接触できないようにされたんです。設計図とか関係書類もすべて廃棄された。だから戦争が終わるまで一般の日本人に信濃の存在は知られていませんでした。
 信濃を沈めたアメリカの潜水艦の乗り組み員が、潜望鏡で見た巨大な船を日本の艦船カタログで調べるんですが、信濃は載っていない。とてつもなく巨大な空母だったということしかわからなかった。結局、事実関係が明らかになったのは戦争が終わってから。戦争の実態は、同時代の人間にはなかなかわからない、ということがこれを読むとよくわかります。信濃を撃沈させた潜水艦の艦長だったアメリカ人が、戦争が終わってから、あの船はいったい何だったのだろうと不思議に思って、調べて調べて資料を集めて書いた本なんです。
佐藤/そのおかげでプラモデルも作られたんでしょうね。信濃を護衛していたのが、駆逐艦「雪風」。雪風は、大和や武蔵も護衛していた。ところが、雪風と一緒だった大きな戦艦、すべて沈没している。死に神駆逐艦なんです(笑)。豊田穣『雪風ハ沈マズ--強運駆逐艦 栄光の生涯』(光人社NF文庫)に詳しいです。「駆逐艦雪風」という映画もありました。
立花/光人社は軍事モノのいい本をたくさん出していますよね。
佐藤/光人社の本、私も山ほど持っていますよ(笑)。軍事モノとしては、文春文庫の『双発戦闘機「屠龍」--一撃必殺の重爆キラー』(渡辺洋二著/佐藤133)を入れました。私の父は、陸軍の隼航空隊という部隊に配属されていたから、父はよく戦闘機の話をしていました。その中でも、日本の戦闘機で唯一B29と対抗できる「屠龍」の話は何度も聞きました。足は遅い代わりに、大きな機関砲が装備されていて破壊力が強く、旋回性にも優れている。なおかつ、搭乗員を守る防御態勢も整っている。B29を意識して設計されているんです。B29と対抗すると屠龍の分が悪いですが、B24やB17相手だったら確実に勝つ。知られざる強い戦闘機だったんです。
立花/信濃も、もし戦場に投入されていれば相当の力を発揮したにちがいないんですが、空母に載せる肝心の航空機が、もうほとんど残っていなかった。それで特攻機「桜花」を載せただけでなく、特攻艇「震洋」というボートまで載せた。
佐藤/沖縄集団自決で問題になっている陸軍の海上挺身隊の赤松隊のボートも同じつくりでしたね。
立花/作家の島尾敏雄が訓練を受けていたのも震洋でした。世界最大の航空母艦信濃に、わざわざボートを載せなければならないほど、日本は追いつめられていた。
佐藤/日本は非常に厳しい状況に置かれていました。力に圧倒的な差がある、必ずしも勝てない敵に対して、どこまで抵抗できるか。私が重要だと思うのは、そういう所与の条件の中で、当時の科学技術の粋を尽くして「屠龍」のような道具を作るという発想なんです。
立花/太平洋戦争の開戦後、日米の空軍力に大きな力の差があることが、マリアナ沖海戦で決定的になった。『激闘マリアナ沖海戦 日米戦争・最後の大海空戦』(江戸雄介著/光人社NF文庫/立花112)を読むとよくわかります。

□立花隆×佐藤優『ぼくらの頭脳の鍛え方 必読の教養書400冊』(文春新書、2009)の「第2章 20世紀とは何だったのか --戦争論、アメリカの無知、スターリンの粛正」のうち項目「戦艦「信濃」を知っているか」を引用
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 【参考】
【佐藤優】歴史の転換点に立つ日本人のための読書ガイド ~『ぼくらの頭脳の鍛え方』~
【本】現実社会を生きぬくための読書 ~『世界と闘う「読書術」』~


 


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