(1)魚は天然ものに限る。味覚からしても、安全度からしても。
・・・・というのが定説だが、必ずしもそうとは言い切れない時代になったらしい。
養殖は、安全面では天然を一歩リード、味でも天然に負けない実力がついてきたらしい。
(2)養殖の技術は進歩した。
例えば、宇佐水産(愛媛県愛南町)。養殖マダイで出荷量日本一の愛媛県で、「宇佐パノラマ海洋牧場」を運営する。宇佐水産は、1964年にハマチの養殖を始め、1974年からマダイ養殖に専念。出荷数は150万尾だ(2012年度)。
当初、湾内で育てていたが、1970年に10km沖合の漁場に移動した。
通常のいけすは10平米だが、宇佐水産のそれは20平米で8倍以上の容量がある。飼育密度は通常の半分以下。密殖ではないから、病気になりにくく、太りがよく、身が締まる。
トレーサビリティを開示し、抗生物質も稚魚のとき1回使うだけだ。
餌も、当初はイワシの切り身やミキシングした生餌を与えていたが、肉質改善と海洋汚染防止のため、1984年からペプチド・モイスト・ペレットを使っている。食いつきや消化吸収がよく、免疫力がつく。ペレットは、イカの肝臓が入っているからか、なめるとイカの塩辛に似た味がする。人間が食べても美味しいものをマダイは食べているのだ。
2003年にこの餌で育てたマダイのうまみ成分を分析したところ、天然魚に比べて、グルミタン酸が50%、イノシン酸が11%も高いという結果が出た。
天然魚には旬があるが、養殖ではカロリー計算をした餌を与えるため年間を通じて美味しい魚を安定的に供給できる。稚魚から人間が管理するので、天然魚よりも安全といえる。【竹田英則・愛媛県魚類養殖協議会会長】
(3)魚は、海水あるいは食物連鎖によって有害物質を取り込む。
「週間朝日」誌は、農林水産省のデータ(2007年度)から、養殖と天然の両方の魚を抽出し、ダイオキシン類濃度を比較した。
調査方法などの詳細がわからないから断定できないが、数字や地域の状況から、養殖のほうがダイオキシン類の濃度が低いといえるのはアユだ。また、天然・養殖にかかわらずダイオキシン類の濃度が高いマグロやブリでは養殖の今後が期待される。ダイオキシン類は餌によって魚に蓄積するが、養殖ならその餌をコントロール可能だ。【田辺信介・愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授(環境化学)】
2009年に、サンダーランド(ハーバード大学)らが「北太平洋の水銀レベルは21世紀になってわずか5年程度でも30%上昇している」という衝撃的な論文を」発表した。自分たちの調査でも、日本の沿岸で捕獲された魚類の水銀濃度は、減少もしくは変化のない傾向だったが、北太平洋のスケトウダラは水銀、ヒ素、カドミウムのレベルが上昇していた。どこで生まれ、どの海域で育ったかがわからない天然魚より、しっかり管理されている養殖魚のほうが安全だ。【渡邊泉・東京農工大学農学部環境資源科学科准教授(環境毒性学)】
(4)マグロ養殖には、大きく分けて2種類の養殖がある。
(a)養殖・・・・種苗と呼ばれるヨコワ(100~500g)を2~3年かけてマーケットサイズに育てる。
(b)畜養・・・・20~60kg程度のマグロを捕獲し、半年ほどかけて肥やす。
日本ではほとんどが(a)を実施する。他方、スペインなど地中海沿岸諸国、メキシコ、オーストラリアなどでは(b)を行う。
近畿大学やマツハニチロなどは、「完全養殖」(人工親魚から人工種苗を育てる)に成功している。その人工種苗を購入し、養殖して出荷する業者が出てきている。
(5)食物連鎖の上位にいるマグロは水銀濃度が高い。
水銀濃度を養殖・天然で比較すると、天然マグロより養殖マグロのほうが水銀濃度が低い。一般に、マグロの水銀濃度は、食べた餌の量に比例する。自然界には豊富に餌があるわけではないので、天然マグロは広く海洋を動き回って餌を確保する。動くスペースが狭く、餌が潤沢な養殖マグロに比べ、無駄な動きが多いため、結果的には同じ大きさの養殖に比べて食べる量が多く、水銀濃度が高くなりやすい傾向がある。【遠藤哲也・北海道医療大学薬学部准教授】
水銀濃度は大きさ、年齢とともに高まるため、小型で若い養殖は濃度が低くなりやすい。
マグロの水銀濃度が高い理由は、もう一つある。
天然マグロは赤身(筋肉)部分が多い【注】。天然マグロではトロの部分が20%だが、養殖マグロでは80%にもなる。水銀は筋肉をつくる蛋白質にたまる性質がある。天然マグロで水銀濃度が高くなりやすい所以だ。
水銀濃度が高いのは、飼育期間が短く、天然に近い(b)も同様だ。以前、スペイン産の畜養マグロの水銀濃度の高さが問題になった。
(6)養殖であれば、何でも安全というわけではない。餌によっては、養殖の水銀濃度が高まる。逆に言えば、水銀濃度の低い小魚を餌にすることで、養殖の水銀濃度を減らすことができる。
(3)のデータからしても、ダイオキシン類では、クロマグロは天然と養殖でほぼ同じで、ミナミマグロは天然より養殖のほうが高い。
ダイオキシン累の一つPCB(コプラナーPCB)は養殖のほうが高い。PCBには脂にたまる性質があるので、トロの部分が多くなるほど濃度が高くなる可能性がある。水銀のみならずPCBについても検証する必要がある。【遠藤准教授】
【注】養殖マグロに赤身が多いのは、栄養面からみると利点だ、という見解もある。
養殖マグロは脂が多いので、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの栄養素が豊富だ。養殖では赤身にも脂が十分に含まれているので、脂が胃にさわる年配の人は赤身を食べるとよい。【成瀬宇平・鎌倉女子大学名誉教授】
□庄村敦子/山内リカ(本誌)「安心・安全で一歩リード サカナは養殖に限る!」(「週刊朝日」2013年6月21日号)
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・・・・というのが定説だが、必ずしもそうとは言い切れない時代になったらしい。
養殖は、安全面では天然を一歩リード、味でも天然に負けない実力がついてきたらしい。
(2)養殖の技術は進歩した。
例えば、宇佐水産(愛媛県愛南町)。養殖マダイで出荷量日本一の愛媛県で、「宇佐パノラマ海洋牧場」を運営する。宇佐水産は、1964年にハマチの養殖を始め、1974年からマダイ養殖に専念。出荷数は150万尾だ(2012年度)。
当初、湾内で育てていたが、1970年に10km沖合の漁場に移動した。
通常のいけすは10平米だが、宇佐水産のそれは20平米で8倍以上の容量がある。飼育密度は通常の半分以下。密殖ではないから、病気になりにくく、太りがよく、身が締まる。
トレーサビリティを開示し、抗生物質も稚魚のとき1回使うだけだ。
餌も、当初はイワシの切り身やミキシングした生餌を与えていたが、肉質改善と海洋汚染防止のため、1984年からペプチド・モイスト・ペレットを使っている。食いつきや消化吸収がよく、免疫力がつく。ペレットは、イカの肝臓が入っているからか、なめるとイカの塩辛に似た味がする。人間が食べても美味しいものをマダイは食べているのだ。
2003年にこの餌で育てたマダイのうまみ成分を分析したところ、天然魚に比べて、グルミタン酸が50%、イノシン酸が11%も高いという結果が出た。
天然魚には旬があるが、養殖ではカロリー計算をした餌を与えるため年間を通じて美味しい魚を安定的に供給できる。稚魚から人間が管理するので、天然魚よりも安全といえる。【竹田英則・愛媛県魚類養殖協議会会長】
(3)魚は、海水あるいは食物連鎖によって有害物質を取り込む。
「週間朝日」誌は、農林水産省のデータ(2007年度)から、養殖と天然の両方の魚を抽出し、ダイオキシン類濃度を比較した。
調査方法などの詳細がわからないから断定できないが、数字や地域の状況から、養殖のほうがダイオキシン類の濃度が低いといえるのはアユだ。また、天然・養殖にかかわらずダイオキシン類の濃度が高いマグロやブリでは養殖の今後が期待される。ダイオキシン類は餌によって魚に蓄積するが、養殖ならその餌をコントロール可能だ。【田辺信介・愛媛大学沿岸環境科学研究センター教授(環境化学)】
2009年に、サンダーランド(ハーバード大学)らが「北太平洋の水銀レベルは21世紀になってわずか5年程度でも30%上昇している」という衝撃的な論文を」発表した。自分たちの調査でも、日本の沿岸で捕獲された魚類の水銀濃度は、減少もしくは変化のない傾向だったが、北太平洋のスケトウダラは水銀、ヒ素、カドミウムのレベルが上昇していた。どこで生まれ、どの海域で育ったかがわからない天然魚より、しっかり管理されている養殖魚のほうが安全だ。【渡邊泉・東京農工大学農学部環境資源科学科准教授(環境毒性学)】
(4)マグロ養殖には、大きく分けて2種類の養殖がある。
(a)養殖・・・・種苗と呼ばれるヨコワ(100~500g)を2~3年かけてマーケットサイズに育てる。
(b)畜養・・・・20~60kg程度のマグロを捕獲し、半年ほどかけて肥やす。
日本ではほとんどが(a)を実施する。他方、スペインなど地中海沿岸諸国、メキシコ、オーストラリアなどでは(b)を行う。
近畿大学やマツハニチロなどは、「完全養殖」(人工親魚から人工種苗を育てる)に成功している。その人工種苗を購入し、養殖して出荷する業者が出てきている。
(5)食物連鎖の上位にいるマグロは水銀濃度が高い。
水銀濃度を養殖・天然で比較すると、天然マグロより養殖マグロのほうが水銀濃度が低い。一般に、マグロの水銀濃度は、食べた餌の量に比例する。自然界には豊富に餌があるわけではないので、天然マグロは広く海洋を動き回って餌を確保する。動くスペースが狭く、餌が潤沢な養殖マグロに比べ、無駄な動きが多いため、結果的には同じ大きさの養殖に比べて食べる量が多く、水銀濃度が高くなりやすい傾向がある。【遠藤哲也・北海道医療大学薬学部准教授】
水銀濃度は大きさ、年齢とともに高まるため、小型で若い養殖は濃度が低くなりやすい。
マグロの水銀濃度が高い理由は、もう一つある。
天然マグロは赤身(筋肉)部分が多い【注】。天然マグロではトロの部分が20%だが、養殖マグロでは80%にもなる。水銀は筋肉をつくる蛋白質にたまる性質がある。天然マグロで水銀濃度が高くなりやすい所以だ。
水銀濃度が高いのは、飼育期間が短く、天然に近い(b)も同様だ。以前、スペイン産の畜養マグロの水銀濃度の高さが問題になった。
(6)養殖であれば、何でも安全というわけではない。餌によっては、養殖の水銀濃度が高まる。逆に言えば、水銀濃度の低い小魚を餌にすることで、養殖の水銀濃度を減らすことができる。
(3)のデータからしても、ダイオキシン類では、クロマグロは天然と養殖でほぼ同じで、ミナミマグロは天然より養殖のほうが高い。
ダイオキシン累の一つPCB(コプラナーPCB)は養殖のほうが高い。PCBには脂にたまる性質があるので、トロの部分が多くなるほど濃度が高くなる可能性がある。水銀のみならずPCBについても検証する必要がある。【遠藤准教授】
【注】養殖マグロに赤身が多いのは、栄養面からみると利点だ、という見解もある。
養殖マグロは脂が多いので、ドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)などの栄養素が豊富だ。養殖では赤身にも脂が十分に含まれているので、脂が胃にさわる年配の人は赤身を食べるとよい。【成瀬宇平・鎌倉女子大学名誉教授】
□庄村敦子/山内リカ(本誌)「安心・安全で一歩リード サカナは養殖に限る!」(「週刊朝日」2013年6月21日号)
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