語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【欧州】のゴミ箱扱いに憤慨する東欧諸国 ~深まるEUの東西分裂~

2017年06月28日 | 社会
 (1)欧州を東西に分断した鉄のカーテンが開かれたとき、チェコやスロバキア(当時はチェコスロバキア)の国民は隣のオーストリアへなだれ込んだ。映画でしか見られなかった西欧の製品を手にとって買えるようになったからだ。
 西欧の企業はこぞって「製品」を東欧へ売り込んだ。
 しかし、同じ名前がついていても、西欧の「製品」の質と東欧のそれとは違った。1989年にベルリンの壁が崩れてから28年経った今も、その事情に変化はない。

 (2)その事例。
  (a)ダノン、ネスレ、ペプシコなど、欧米の多国籍企業は同じブランド名を冠しながらも、東欧では人口甘味料を多用し、肉・魚肉の含有量を低くし、高い脂肪分の原料を使っている。さらに、西欧では健康に害を及ぼす可能性があるため使用をやめた部分水素化油脂を、東欧では使用している企業が多い。
  (b)チェコで売られているネスティ-レモン(ネスレとコカ・コーラの共同製品のアイスティー)に入っている紅茶成分のエッセンスは、ドイツのものよりも40%も少ない。
  (c)ドイツで売られているスプライトは砂糖だけで甘みを出しているが、チェコのものはシロップと人口甘味料で味付けされている。
  (d)欧州冷凍食品大手のイグロ・グループのフィッシュ・フィンガース(魚肉の冷凍食品)も、魚肉の含有率がオーストリアでは65%なのに対して、スロバキアとハンガリーでは58%だ。
  (e)独ライプニッツ社のビスケットも、ドイツでは12%のバターを含んでいるが、ポーランドではたった5%な上に、ドイツでは使用していないパーム油(バター代用品)を使っている。

 (3)多国籍企業は、現地人の好みに合わせて現地の人が使い慣れたレシピを使用している、と反論するが、東欧向け製品のコスト削減を行っているのは明白だ。
 さらに、製品の広告をドイツのベルリンで見て、チェコのプラハで買う人もいる。同じ製品の品質がドイツとチェコで全く違えば、消費者をだましたといわれても弁明の余地はない。

 (4)「東欧は欧州のゴミ箱の扱いを受けている」と憤慨するチェコ、スロバキア、ハンガリー、ポーランドの東欧4ヵ国からなる地域協力機構「ヴィシェグラード・グループ」は、2016年末から食品の東西格差を調査している。彼らは欧州委員会に対して、「一つの史上、一つの基準」を貫くべきだ、と働きかける予定だ。
 反欧州連合(EU)を掲げて国家主義を進展させたいハンガリーのヴィクトル政権にとって、この「最大級のスキャンダル」は、国民に訴えかける格好の題材だ。

 (5)しかし、食品をはじめとする消費財は、主に中流家庭をターゲットにしている。中流といっても、西欧と東欧の購買力には倍近くの差がある。EU統計局のユーロスタッフによれば、2015年時点の食品価格はポーランドではEU平均の63%だが、オーストリアでは平均の120%だ。東欧では価格を抑えなければ買ってもらえないのが現実なのだ。
 EUは、食の安全は規制するものの、多国籍企業からの圧力もあって、企業の品質管理には関与しないスタンスを崩さないだろう。
 しかし、「ヴィシェグラード・グループ」は、「東欧への食の人種差別」の解消に向け、断固たる姿勢を貫く構えだ。EU内の東西分裂の溝は、深まる一方だ。

□竹下誠二郎(静岡県立大学経営情報学部教授)「「欧州のゴミ箱」扱いに憤慨する東欧諸国 深まるEUの東西分裂」(「週刊ダイヤモンド」2017年7月1日号)
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 【参考】
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