●大岡昇平「現代への鋭利な諷刺」 ~『神聖喜劇』評~
日本の軍隊は老朽化し官僚化し、各種「操典」や「令」の、文語カタカナ書きの煩雑な条文に縛られていた。敵が退却したのに、追撃しないと「作戦要務令」違反になるため、猪突して壊滅したりした。
大西巨人氏は、超人的記憶力をもつ主人公を設定することにより、この条文を逆手にとって、軍隊生活の喜劇性を生き生きと描き出すのに成功した。この喜劇性はまた、ますます官僚化しつつある現代の生産社会のものであるから、現代への鋭利な諷刺になっている。
□『神聖喜劇 第1巻』(光文社、1978)添付の栞。
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●記事「作家の大西巨人さん死去 97歳、小説「神聖喜劇」」
<超人的な記憶力と論理的思考力で、非人間的な軍隊組織に抵抗する兵士を描いた長編小説「神聖喜劇」で知られる作家の大西巨人(おおにし・きょじん、本名巨人〈のりと〉)さんが12日午前0時半、死去した。97歳だった。故人の遺志により葬儀は行わない。長男は作家の赤人(あかひと)さん。
政治や差別問題にも筆をふるい、鋭い風刺で社会の問題点を突いた。約25年かけて1980年に完成した「神聖喜劇」は、主人公の陸軍2等兵が軍隊という強大な権力機構に独りで向き合い、上官らと渡り合う姿を描いた。松本清張や埴谷雄高らの支持を得た。原作にした漫画も出版され、2007年に日本漫画家協会賞大賞を受賞した。
福岡市生まれ。九州大法文学部中退後、新聞社勤務を経て、召集で対馬要塞(ようさい)重砲兵連隊に入隊。戦後、福岡で「文化展望」の編集にあたり、日本共産党に入党。52年に上京、新日本文学会常任委員となった。評論「俗情との結託」(52年)で野間宏の「真空地帯」を大衆追従主義と批判し、野間や宮本顕治らと論争。その後、共産党と絶縁状態となり、72年に新日本文学会を退会した。
小説に、労働運動の堕落を告発した「天路の奈落」、評論集に「戦争と性と革命」「巨人批評集」、朝日ジャーナル誌での連載をまとめた「巨人の未来風考察」などがある。
遅筆、寡作で知られたが、晩年に「深淵」「縮図・インコ道理教」「地獄篇三部作」などの作品を発表し続けた。
赤人さんによると、昨年暮れに肺炎で入院した後、自宅で療養していたという。>
□記事「作家の大西巨人さん死去 97歳、小説「神聖喜劇」」(朝日デジタル 2014年3月13日)
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大岡昇平も大西巨人も不正に敏感で、差別を批判した。
大西は、二人の子どもが血友病であることもあって、次のような論陣を張った。ほかに、ハンセン病などについても言及がある。
(1)優生思想について
「破廉恥漢渡部昇一の面皮をはぐ」
「指定疾患医療給付と谷崎賞」
「指定疾患医療給付と谷崎賞・補説」
「渡部昇一における鉄面皮ぶりの一端」
「恥を恥と思わぬ恥の上塗り」
※以上、『大西巨人文選3』(みすず書房、1996)
【注】一連の論争については、「神聖な義務」アーカイブがある。
(2)障害児の教育権
「障害者にも学ぶ権利がある」
「文部大臣への公開状」
「ふたたび文部大臣への公開状」
「学習権妨害は犯罪である」
「『私憤』の激動に徹する」
「『学校教育法』第二十三条のこと」
※以上、『時と無限 大西赤人作品集・大西巨人批評集』(創樹社、1973)
「面談『大西赤人問題』今日の過渡的決着」
「付審判請求から特別抗告へ」
※以上、『巨人批評集』(秀山社、1975)
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