<さて、元に戻します。日本語の哲学用語が皮膚感覚的にピンと来ないように、今の世界に生きるわれわれには隔靴掻痒というか、うまく想像しにくいものがあります。
商品が生まれると必ず貨幣が生まれます。貨幣が生まれるところには必ず資本があります。資本主義社会のわれわれは、労働力の商品化がなされたもとで生きています。われわれはメシを食うために物を作り、その賃金で商品を買い、社会的関係を維持している。日常的に、生活に必要なものは全部カネを出して買っているわけです。ですから、カネなしで暮らしていた世界のことを想像しにくくなっている。実はわれわれが想像しにくくなっているものって、意外とたくさんあるんですよ。
そんな視点から経済を見た天才的経済学者がカール・ポランニーです。彼はハンガリーの出身で、コロンビア大学で教えていたのですが、奥さんが共産党の関係者でマッカーシズム全盛のアメリカへは入国が認められなかったため、カナダに住んでニューヨークに通っていました。
このポランニーが、「人間の経済」には三つの要素があると言っています。
まず一つ目は贈与。お金をたっぷり持っているやつがひたすらばらまく。みなさんも、文化人類学の方で〈ポトラッチ〉なんて言葉を聞いたことがあるでしょう。ポトラッチをやる人間は、富をばらまいて、とにかく全部ばらまき終わって完全に破産するまでばらまき続ける。やがてまた別の新しいポトラッチが行われる。
贈与って、モースの『贈与論』を読めばわかるように、面白いんです。人間には贈与されると、モノを返したくなる性格があります。ですから圧力鍋セットを売りつける悪徳業者なども、タッパーウェアなんかをまずあげるんですね。その後で説明会へ連れていけば、「モノをもらっちゃったから、こっちも何かお返しをしないと」と思って、契約するわけです。これを〈返報性の法則〉と言います。悪徳マルチ商法の人たちは、人間の心理をよくつかんでいますよ。
逆に贈与をずっとするが、与えるだけで、返さないでいいとなると、力関係になります。だから派閥の領袖が、夏には氷代、冬には餅代とばらまく。最初は仲間同士のつもりでいても、いつも奢られていると、それは力関係になってしまいます。これも一つの経済です。>
□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「3 カネはいくらでも欲しい」の「贈与と相互扶助の久米島」から一部引用
【参考】
「【佐藤優】公務員は労働者階級でも資本家階級でも地主階級でもない ~いま生きる「資本論」(18)~」
「【佐藤優】資本主義を土地(環境)が制約する ~いま生きる「資本論」(17)~」
「【佐藤優】他人のための使用価値 ~いま生きる「資本論」(16)~」
「【佐藤優】〈裏のユダヤ教〉カバラ思想の下に埋もれている部分を説明したフロイト ~いま生きる「資本論」(15)~」
「【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~」
「【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~」
「【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~」
「【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~」
「【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~」
「【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~」
「【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~」
「【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~」
「【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~」
「【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~」
商品が生まれると必ず貨幣が生まれます。貨幣が生まれるところには必ず資本があります。資本主義社会のわれわれは、労働力の商品化がなされたもとで生きています。われわれはメシを食うために物を作り、その賃金で商品を買い、社会的関係を維持している。日常的に、生活に必要なものは全部カネを出して買っているわけです。ですから、カネなしで暮らしていた世界のことを想像しにくくなっている。実はわれわれが想像しにくくなっているものって、意外とたくさんあるんですよ。
そんな視点から経済を見た天才的経済学者がカール・ポランニーです。彼はハンガリーの出身で、コロンビア大学で教えていたのですが、奥さんが共産党の関係者でマッカーシズム全盛のアメリカへは入国が認められなかったため、カナダに住んでニューヨークに通っていました。
このポランニーが、「人間の経済」には三つの要素があると言っています。
まず一つ目は贈与。お金をたっぷり持っているやつがひたすらばらまく。みなさんも、文化人類学の方で〈ポトラッチ〉なんて言葉を聞いたことがあるでしょう。ポトラッチをやる人間は、富をばらまいて、とにかく全部ばらまき終わって完全に破産するまでばらまき続ける。やがてまた別の新しいポトラッチが行われる。
贈与って、モースの『贈与論』を読めばわかるように、面白いんです。人間には贈与されると、モノを返したくなる性格があります。ですから圧力鍋セットを売りつける悪徳業者なども、タッパーウェアなんかをまずあげるんですね。その後で説明会へ連れていけば、「モノをもらっちゃったから、こっちも何かお返しをしないと」と思って、契約するわけです。これを〈返報性の法則〉と言います。悪徳マルチ商法の人たちは、人間の心理をよくつかんでいますよ。
逆に贈与をずっとするが、与えるだけで、返さないでいいとなると、力関係になります。だから派閥の領袖が、夏には氷代、冬には餅代とばらまく。最初は仲間同士のつもりでいても、いつも奢られていると、それは力関係になってしまいます。これも一つの経済です。>
□佐藤優『いま生きる「資本論」』(新潮社、2014)の「3 カネはいくらでも欲しい」の「贈与と相互扶助の久米島」から一部引用
【参考】
「【佐藤優】公務員は労働者階級でも資本家階級でも地主階級でもない ~いま生きる「資本論」(18)~」
「【佐藤優】資本主義を土地(環境)が制約する ~いま生きる「資本論」(17)~」
「【佐藤優】他人のための使用価値 ~いま生きる「資本論」(16)~」
「【佐藤優】〈裏のユダヤ教〉カバラ思想の下に埋もれている部分を説明したフロイト ~いま生きる「資本論」(15)~」
「【佐藤優】講座派の特徴、「日本の特殊な型」 ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】講座派vs.労農派、内ゲバのロジック ~いま生きる「資本論」(13)~」
「【佐藤優】宇野経済学は歴史学、資本主義社会の論理をつかむ ~いま生きる「資本論」(12)~」
「【佐藤優】『資本論』の二つの読み方 ~いま生きる「資本論」(11)~」
「【佐藤優】第一次世界大戦のため日本で『資本論』研究が盛んに ~いま生きる「資本論」(10)~」
「【佐藤優】本書は人生が苦しい原因の6割を解明する ~いま生きる「資本論」(9)~」
「【佐藤優】宇野経済学の面白さ ~いま生きる「資本論」(8)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ・補遺 ~いま生きる「資本論」(7)~」
「【佐藤優】自分の周りでできること二つ ~いま生きる「資本論」(6)~」
「【佐藤優】報酬と賃金は違う ~いま生きる「資本論」(5)~」
「【佐藤優】剰余価値の作り方:労働時間延長と労働強化 ~いま生きる「資本論」(4)~」
「【佐藤優】制約条件をわかった上でやる、突き放して見る ~いま生きる「資本論」(3)~」
「【佐藤優】アベノミクスとファシズム ~いま生きる「資本論」(2)~」
「【佐藤優】親の収入・学歴と、子どもの学力の関係 ~いま生きる「資本論」(1)~」