語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【食】グルテンの中毒性、仮説を明確に否定 ~パンやうどん~

2016年07月29日 | 医療・保健・福祉・介護
 (1)パンやうどんなどの原料である小麦を「食べてはいけない」とする説が、最近、本やネットで流れている。
 小麦をめぐって
  (a)その糖質に着目した「糖質制限」の話
  (b)小麦に含まれるタンパク質の一種グルテンが一部の人に引き起こす病気の話
  (c)万人にグルテンは危険とする説
が混同して流布している。
 (b)については、①セリアック病、②グルテンアレルギー、③グルテン過敏症があり、基本的にはグルテン除去食で症状が改善する。
 ③の患者に、テニスの世界王者ノバク・ジョコビッチ選手がいる。グルテンを抜いた食生活で劇的に改善したという。
 ①は、特定の型の白血球抗原をもつ人がグルテンを構成するタンパク質グリアジンを摂取した場合に起こる自己免疫疾患で、小腸の炎症によって栄養吸収ができなくなり、神経障害なども引き起こす。米国では近年患者が増加し、130人に1人いる。ただし、遺伝的要因が大きく、日本人には稀だ。

 (2)(1)-(c)において、特に注目されるのは、「グルテンには麻薬のような中毒性があり、記憶障害や情緒不安定、鬱などを引き起こす」という説。
 1979年に、グルテンを摂取した際、モルヒネと似た作用をするオピオイドペプチドが消化管内で派生することがわかった。これが「グルテンは麻薬のよう」という仮説の論拠になった。
 しかし、1991年にグルテンオピオイドペプチドの構造を解明した吉川正明・京都大学名誉教授はこの仮説を明確に否定する。
 「オピオイド受容体にはデルタ、ミュー、カッパの3種類あるが、グルテンオピオイドペプチドが結合するのは、モルヒネが結合するミュー受容体ではなく、デルタ受容体であり、モルヒネのような中毒作用を示すことはありません。マウスに比較的大量のグルテンオピオイドペプチドを経口投与した実験では、記憶増強やストレス低下など、むしろ好ましい作用を示すこともわかっています」

 (3)グルテン害悪説派は、現在流通する小麦の大半を占める「半矮性種」を問題視する。1960年代以降の品種改良で、グルテンの含有量が従来種より格段に高まり、(1)-(b)-①や認知症などが増えた一因だ、との主張だ。しかし、
 「米カンザス州の小麦を1949年から2011年まで調べた論文もあり、品種改良の後でグルテン含有量が格段に高まったという事実は見当たりません」【国立研究開発法人「農業・食品産業技術総合研究機構」の担当者】

 (4)グルテンと様々な疾病との関連について、日本では大規模な疫学調査はほとんど行われていない。原因不明の不調が続く人は、グルテン過敏症かどうか検査するのも手だが、日本では一部の病院でしか行っておらず、保険適用外。日本アレルギー学会は、その検査自体の有用性を公式に否定している。 

□石臥薫子・柳堀栄子(編集部)「グルテンの中毒性、仮説を明確に否定 ~食べていい・悪いの境界線~」(「AERA」2016年7月25日号)
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 【参考】
【食】野菜は水にさらし、炒めるより蒸す ~アクリルアミド~
【食】毎日ハム5枚は多すぎ、気にすべきは量 ~亜硝酸ナトリウム~

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