(1)薬局でやたらにジェネリック薬を勧められたり、ジェネリック薬を勧めるのポスターが貼られていたり、テレビでジェネリックメーカーのCMを頻繁に見かけたりする。
なぜジェネリック薬がこんなに猛プッシュされているのか。
政府が、2015年5月末に、40兆円にも膨らんだ医療費を削減する対策の目玉として、2020年度末までにジェネリックの数量ベースの普及率を80%(2015年度4~6月は54.4%)に高める目標を掲げたからだ。
(2)一定期間、独占的に販売できる新薬(先発薬)の特許が切れた「後発薬」のことを「ジェネリック薬」と呼ぶ。開発費が数百億円かかるとされる先発薬に比べ、後発薬は開発費がそれほどかからないので、薬価が新薬の6割以下に設定されている。
国は、80%の目標が達成されれば、2020年度に1.3兆円削減できると算盤をはじいている。
国は、使う側にもインセンティブをつけている。
(a)医師は、薬の商品名を指定せず、薬局でジェネリックが出せるよう一般名(成分名)で処方すれば、処方箋交付1回当たり2点(20円)の診療報酬点数が加算される。
(b)薬局は、ジェネリック薬を調剤する割合が高いほど、診療報酬が加算される。だから、処方箋を持参すると、やたらと薬剤師がジェネリックを勧めたがるのだ。
(3)有効成分が同じで薬価が安いのだから、いいことずくめだ・・・・と思うかもしれない。しかし、ジェネリック薬には、あまりにも「まやかし」が多すぎる。
(4)まやかしの1、「同等性」の問題。
国は、薬の摂取後に有効成分の血中濃度の上がる速度や量が一定範囲に収まれば「生物学的同等性がある」と見なし、先発薬と同じ効能・効果が得られるとしている。
ところが、実際には、先発薬と血中濃度の上がる速度や量が違う後発薬がいくつもあり、そのためにトラブルが生じている、と専門家から指摘されている。
<例1>有効成分がゆっくり溶け出すタイプの狭心症薬を、先発薬から後発薬に切り替えたとたん、発作が抑えられなくなり、救急病院に運ばれて危うく一命を取り留めたケースがあった。
<例2>皮膚に貼るタイプのぜんそく薬では、後発薬だと朝のぜんそく発作を抑えられないとする指摘が複数あった。
なぜ、このようなことが起こるのか。
それは、有効成分が同じでも、薬を形づくるのに必要な添加剤やコーティング剤などが先発薬と異なるからだ。そのため、徐々に溶け出すはずの有効成分が一気に放出されて、前記のような事態が起こったと考えられている。
実は、薬には有効成分だけでなく、薬を形づくる添加剤や製法にも特許がある場合がある。
また、薬の製法には他社に真似できないノウハウもある。
かくて、添加剤や製法が異なるために、後発薬だとアレルギーが出たり、効果が十分に得られないケースがある、という指摘もあった。
<例3>抗生物質や皮膚科のぬり薬のケース。
(5)まやかしの2、薬の原料である「原薬」の品質の問題。
国が行った調査によると、ジェネリック薬の原薬の約半数(購入金ベース)が中国、韓国、インドから調達されていた。
①中国・・・・下水油を原料とした抗生物質が流通した事件があった。
②韓国・・・・工場が品質基準を満たしておらず、日本の一部のジェネリック薬の流通がストップしたことがあった。
③インド・・・・原薬工場ではハエが飛ぶほど不衛生であることが発覚した。
海外の原薬のすべてが信用できないというわけではない。
国も来年度から海外の工場に派遣する査察員を増やすなどして、原薬の品質検査を強化する方針を打ち出している。
しかし、鳥集徹らが日本ジェネリック製薬協会に所属する41社を対象に原薬の調達状況を照会するアンケートを実施したところ、回答があったのはわずか3社だった。
食品と同様に原産地表示は、消費者が商品を選択するにあたり欠かせない情報だ。業界にこうした隠蔽体質がある限り、いくら品質検査を強化しても危険性は残る。
(5)そもそも、国やメーカーがジェネリック薬の「同等性」にこだわり過ぎていることも問題だ。
添加剤の違いなどによってトラブルが生じることを、ジェネリックを推進する側は「こうした副作用は先発薬でも起こること」と反論している。
しかし、問題は「副作用」ではない。どちらも「同じ」という前提に立つと、先発薬から後発薬に切り替えたときに生じるトラブルに気づくのが遅くなり、患者の命に関わる事態が起こるのが問題なのだ。
にもかかわらず、国やメーカーが「同等性」にこだわるのは、「違う薬」と言ってしまうと、普及推進の妨げになると恐れているからではないか。
しかし、薬の安全性をないがしろにした結果、起こった薬害の例はいくつもある。被害者が出てからでは取り返しがつかない。信用や安全の確保よりも、とにかく先にジェネリック薬を普及させようとする国や業界の姿勢に疑問符がつく。
そもそも、諸外国に比べ、特許切れの薬の薬価自体が高すぎる上に、日本は無駄な薬を使い過ぎだ。そこに切り込んでいかない限り、いくらジェネリック薬を普及させたところで、40兆円(うち薬剤費は10兆円)に膨らんだ国民医療費を削減するのは容易ではあるまい。
□鳥集(とりだまり)徹「ジェネリック薬品にご用心」(『オピニオン 2016年の論点』、文藝春秋社、2015)
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なぜジェネリック薬がこんなに猛プッシュされているのか。
政府が、2015年5月末に、40兆円にも膨らんだ医療費を削減する対策の目玉として、2020年度末までにジェネリックの数量ベースの普及率を80%(2015年度4~6月は54.4%)に高める目標を掲げたからだ。
(2)一定期間、独占的に販売できる新薬(先発薬)の特許が切れた「後発薬」のことを「ジェネリック薬」と呼ぶ。開発費が数百億円かかるとされる先発薬に比べ、後発薬は開発費がそれほどかからないので、薬価が新薬の6割以下に設定されている。
国は、80%の目標が達成されれば、2020年度に1.3兆円削減できると算盤をはじいている。
国は、使う側にもインセンティブをつけている。
(a)医師は、薬の商品名を指定せず、薬局でジェネリックが出せるよう一般名(成分名)で処方すれば、処方箋交付1回当たり2点(20円)の診療報酬点数が加算される。
(b)薬局は、ジェネリック薬を調剤する割合が高いほど、診療報酬が加算される。だから、処方箋を持参すると、やたらと薬剤師がジェネリックを勧めたがるのだ。
(3)有効成分が同じで薬価が安いのだから、いいことずくめだ・・・・と思うかもしれない。しかし、ジェネリック薬には、あまりにも「まやかし」が多すぎる。
(4)まやかしの1、「同等性」の問題。
国は、薬の摂取後に有効成分の血中濃度の上がる速度や量が一定範囲に収まれば「生物学的同等性がある」と見なし、先発薬と同じ効能・効果が得られるとしている。
ところが、実際には、先発薬と血中濃度の上がる速度や量が違う後発薬がいくつもあり、そのためにトラブルが生じている、と専門家から指摘されている。
<例1>有効成分がゆっくり溶け出すタイプの狭心症薬を、先発薬から後発薬に切り替えたとたん、発作が抑えられなくなり、救急病院に運ばれて危うく一命を取り留めたケースがあった。
<例2>皮膚に貼るタイプのぜんそく薬では、後発薬だと朝のぜんそく発作を抑えられないとする指摘が複数あった。
なぜ、このようなことが起こるのか。
それは、有効成分が同じでも、薬を形づくるのに必要な添加剤やコーティング剤などが先発薬と異なるからだ。そのため、徐々に溶け出すはずの有効成分が一気に放出されて、前記のような事態が起こったと考えられている。
実は、薬には有効成分だけでなく、薬を形づくる添加剤や製法にも特許がある場合がある。
また、薬の製法には他社に真似できないノウハウもある。
かくて、添加剤や製法が異なるために、後発薬だとアレルギーが出たり、効果が十分に得られないケースがある、という指摘もあった。
<例3>抗生物質や皮膚科のぬり薬のケース。
(5)まやかしの2、薬の原料である「原薬」の品質の問題。
国が行った調査によると、ジェネリック薬の原薬の約半数(購入金ベース)が中国、韓国、インドから調達されていた。
①中国・・・・下水油を原料とした抗生物質が流通した事件があった。
②韓国・・・・工場が品質基準を満たしておらず、日本の一部のジェネリック薬の流通がストップしたことがあった。
③インド・・・・原薬工場ではハエが飛ぶほど不衛生であることが発覚した。
海外の原薬のすべてが信用できないというわけではない。
国も来年度から海外の工場に派遣する査察員を増やすなどして、原薬の品質検査を強化する方針を打ち出している。
しかし、鳥集徹らが日本ジェネリック製薬協会に所属する41社を対象に原薬の調達状況を照会するアンケートを実施したところ、回答があったのはわずか3社だった。
食品と同様に原産地表示は、消費者が商品を選択するにあたり欠かせない情報だ。業界にこうした隠蔽体質がある限り、いくら品質検査を強化しても危険性は残る。
(5)そもそも、国やメーカーがジェネリック薬の「同等性」にこだわり過ぎていることも問題だ。
添加剤の違いなどによってトラブルが生じることを、ジェネリックを推進する側は「こうした副作用は先発薬でも起こること」と反論している。
しかし、問題は「副作用」ではない。どちらも「同じ」という前提に立つと、先発薬から後発薬に切り替えたときに生じるトラブルに気づくのが遅くなり、患者の命に関わる事態が起こるのが問題なのだ。
にもかかわらず、国やメーカーが「同等性」にこだわるのは、「違う薬」と言ってしまうと、普及推進の妨げになると恐れているからではないか。
しかし、薬の安全性をないがしろにした結果、起こった薬害の例はいくつもある。被害者が出てからでは取り返しがつかない。信用や安全の確保よりも、とにかく先にジェネリック薬を普及させようとする国や業界の姿勢に疑問符がつく。
そもそも、諸外国に比べ、特許切れの薬の薬価自体が高すぎる上に、日本は無駄な薬を使い過ぎだ。そこに切り込んでいかない限り、いくらジェネリック薬を普及させたところで、40兆円(うち薬剤費は10兆円)に膨らんだ国民医療費を削減するのは容易ではあるまい。
□鳥集(とりだまり)徹「ジェネリック薬品にご用心」(『オピニオン 2016年の論点』、文藝春秋社、2015)
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