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①池上彰『知らないと恥をかく世界の大問題7 Gゼロ時代の新しい帝国主義』(角川新書 820円)
②一松信『四色問題』(講談社ブルーバックス 980円)
③淀川裕美『保育所2歳児クラスにおける集団での対話のあり方の変化』(風間書房 6,500円)
(1)①は、新しい帝国主義時代の到来という切り口から、国際情勢を掘り下げて分析している。
<アメリカは銃社会でもあります。そして市民に銃を所持することについての権利を保護することを訴える「全米ライフル協会」(NRA)は、共和党右派とのつながりを強めています。
アメリカ合衆国憲法修正第2条には「規律ある民兵は自由な国家の安全にとって必要であるから、市民が武器を保有し携帯する権利はこれを侵してはならない」とあります。
憲法が、銃を持つことの正当性の根拠となっているのです>
米国憲法の基本理念に、自由に武器を保有し、携帯する権利が含まれていることを理解しないと、米国で銃規制が困難な事情が分からなくなる。
(2)地図は4色で完全に塗り分けることができるという「四色問題」は、事実として誰もが認めるが、証明は極めて難解だ。ようやく1976年に米イリノイ大学のケネス・アッペル、ヴォルフガング・ハーケン両教授が、コンピューターを用いて解決した。
<四色問題のような永年にわたる歴史的な大難問となると、「解決された」といっても、本当に完全かという疑念がつきまとう。まして計算機による大量検査の結果とあれば、当然その追試が欠かせない。もっとも前出の解説記事で竹内外史が指摘している通り、「計算機で証明するのでは正しいかどうか分からないという人もあるが、それはもちろん当たらない。証明をチェックするのと同様に、計算機のプログラムをチェックすることが出来るのだから問題はない」のである>
という著者の指摘には説得力がある。
(3)③は、博士論文をベースにした研究書だが、抜群に面白く、知的刺激に富む作品だ。
<本研究では、バフチンの言語論を参考に「対話」という語を用いる。バフチン(2002)によれば、「ことばを用いたあらゆる交通、ことばによる相互作用は、発話の交換という形態のうちに進む。つまり、対話[ダイアローグ]という形態をとる」>
著者は、ロシアの文芸批評家で哲学者のバフチンの方法で、保育所における2歳児のコミュニケーションについて分析する。2~3歳児が示す確認、伝達、模倣というコミュニケーションが作り出すタペストリーのような世界は実に面白い。
著者が、本書をベースに新書サイズの一般書を書けば、ベストセラーになることは間違いない。
□佐藤優「ベストセラー候補の研究書 ~知を磨く読書 第154回~」(「週刊ダイヤモンド」2016年6月25日号)
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【参考】
「【佐藤優】ねこはすごい、アゼルバイジャン、クンデラの官僚を描く小説」
「【佐藤優】外交官の論理力、安倍政権と共産党、研究不正が起きるシステム」
「【佐藤優】遅読家のための読書術、電気の構造、本屋大賞」
「【佐藤優】外山滋比古/思考の整理学」
「【佐藤優】何が個性で、何が障害か」
「【佐藤優】大宅壮一ノンフィクション賞選評 ~『原爆供養塔』ほか~」
「【佐藤優】英才教育という神話」
「【佐藤優】資本主義の内在的論理」
「【佐藤優】米国の戦略策定、『資本論』をめぐる知的格闘、格差・貧困問題の起源」
「【佐藤優】偉くない「私」が一番自由、備中高梁の新島襄、コーヒーの科学」
「【佐藤優】フードバンク活動、内外情勢分析、正真正銘の「地方創生」」
「佐藤優】日本の政治エリートと「天佑」、宇宙の生命体、10代が読むべき本」
「【佐藤優】組織成功の鍵となる人事、ユダヤ人の歴史、リーダーシップ論」
「【佐藤優】第三次世界大戦の可能性、現代東欧文学、世界連鎖暴落」
「【佐藤優】司馬遼太郎の語られざる本音、深層対話、米政府による暗殺」
「【佐藤優】著名神学者のもう一つの顔 ~パウル・ティリヒ~」
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「【佐藤優】今後、起こりうる財政破綻 ~対応策を学ぶ~」
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