(1)肉を安く出せるには訳がある。
5トンの材料から11トンのハムができる。
(2)今年4月、焼肉大国の韓国で、クズ肉を集めて人工的に作られた「整形カルピ」が大量に出回っていることが報道され、国民にショックを与えた。米国、ドイツなど産地が異なる牛肉にクズ肉を結着した「多国籍カルピ」、骨のない外国産牛肉に食用接着剤で骨を付けた「骨付きカルピ」が、韓国産牛肉に偽装されていたのだ。日本人観光客が多数訪れる有名焼肉店でも出されていた、という。
(3)実は(2)のような加工肉は我が国でも珍しくない。40年ほど前に開発された「成型肉」がそれだ。当時、牛肉は高級食材だった。捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くよう加工した。
<例>スーパーなどで販売されているサイコロステーキは代表的な成型肉だ。赤身肉と脂身が不自然に混ざり合い、一目で人工的に作られた肉であることがわかる。
(4)技術の進歩もあって素人目には天然の肉と見分けがつかない「霜降り加工」を施した成型肉が安価な焼肉店、ステーキ店、しゃぶしゃぶ・すき焼き店、ファミリーレストランなどに出回っている。
食べ放題、1皿200~600円台のカルビ肉を出している激安焼肉店、千円以下で提供しているステーキ肉店・・・・では、大量に成型肉を使っているところもある。
米国、オーストラリアなどの外国産牛肉に、国産牛の脂身を打ち込んで霜降り加工肉を作るケースが多い。脂は国産のほうが上。牛脂の質がよいと、どんな肉でも美味しく化けてしまう。とはいえ、牛脂が固まらないように注入するには乳化剤を添加する必要があるし、乳化剤の味をごまかすために化学調味料を加えたりする。
(5)成型肉を大別すると、次の3つあって、こうした成型肉の製造・販売は合法ではあるが、品質をごまかしやすく、消費者は知らずして食品添加物を摂取してしまう可能性がある。
(a)結着肉・・・・ハラミなどの内臓・腹横筋・脂身・すね肉・肩肉などの端肉をかき集め、食品結着剤を使って固めた上で、食べやすい大きさにカットしたもの。結着剤の中に含まれていることのあるリン酸塩は摂取しすぎると骨を弱くするが、退色防止になるし、弱アルカリ性なので、肉を日持ちさせる効果がある。<例>サイコロステーキ。牛横隔膜などを吸うまい重ね合わせた肉(「ミルフィーユ」)。
(b)霜降り加工肉(インジェンクション加工肉)・・・・近年めざましく進化。剣山のような注射器針の機械で圧力をかけながら練乳、牛脂を肉に注入して作り上げる。和牛霜降り肉と見分けがつかないレベルに達している。市場規模は年間6千トンにもなり、牛肉のほか馬肉、豚肉にも用いられる。
(c)やわらか加工肉・・・・肉の筋や繊維を細かく切断し、酵素添加剤を加えて肉をやわらかくしたもの。ハラミなどによく使用されている。その過程で化学調味料を染み込ませて肉に味つけする場合も多い。
(6)肉をやわらかくするために主流となっているのが酵素添加剤(パパイン酵素など)。これと結着剤などの添加物を小さなブロックにカットした硬い肉にまぶし、型に入れて押し固めたものが「カットビーフ」なる結着肉。ハムのようにどこを切っても同じ形になる。厚みを指定するだけでロスなくグラム計算できる。
こうした成型肉は、食べ方に注意しないと食中毒の心配を伴う。成型肉は、しっかり焼かなくては安心して食べられない。スーパーなどで販売する場合、「加工肉」であること、「中まで火を通してください」の表示が義務づけられている。しかし、ステーキ以外の外食産業は、いまだに法的に義務化されていない。ほとんどの消費者は成型肉であることを知らずに口にしている。
(7)2009年、ステーキチェーン店「ペッパーランチ」で、成型肉の角切りステーキを食べた43人にO-157食中毒が発生した。
肉は大きなブロックにカットされて運ばれてくるが、肉の外側面は大気、人の手、機械、刃物などに触れる可能性があるため菌が付着しやすい。他方、肉の内側は雑菌がないので、普通の肉は表面さえ焼けばレアでも食べられる。しかし、成型肉の場合、加工の際に針、刃などで切り込みを入れることで外側の菌が内部まで侵入してしまうことがある。
だから、成型肉は、仲間でしっかり火を通す必要がある。
ペッパーランチでは、客が自ら肉を焼いていたため、レアやミディアムで食べた人が食中毒になった。
ペッパーランチのような食中毒は、いつ起きてもおかしくはない。激安焼肉店に成型肉が大量に流通しているからだ。
焼肉店では客が自ら肉を焼く。店側の表示が不十分な場合、客が生焼けの肉を食べてしまう可能性が高い。そもそもカルビ肉は、半生で肉の柔らかさが残っている状態で食べるものが美味しい。よく焼いてしか食べることができない成型カルビ肉はを焼肉店で提供すること自体、無理がある。
東京都は、飲食店に成型肉の中心部を75度で1分間加熱の徹底を指導している。「肉をよく焼いてください」「肉を焼くときはトングを使ってください」などとメニューや貼り紙に表示するよう指導している。
□椎名玲(ジャーナリスト)+本誌取材班「「激安ニセモノ食品」が危ない ①焼肉チェーン店編」(「週刊文春」2013年7月18日号)
【参考】
「【食】安い回転寿司の吐き気がする事実 ~代用魚・添加物・薬剤~」
「【食】【TPP】多くの食品衛生法違反 ~交渉参加国からの輸入品~」
「【食】モンサントの不自然な食べもの」
「【食】【TPP】原産地表示の抜け道 ~食のグローバル化~」
「【食】「多古町旬の味産直センター」の試み ~農業経営の安定化~」
「【TPP】「限界農業」化の危機 ~農業の持続可能性~」
「【TPP】持続可能な農業を ~いま必要な政策~」
「【TPP】自民党の二枚舌、甘利大臣の無知」
「【TPP】国家主権の放棄 ~国民の知らないところで~」
「【TPP】条件闘争は不可、途中下車も不可 ~韓米FTA~」
「【TPP】1%の1%による1%のための協定 ~医療・食の安全~」
「【TPP】安部首相の二枚舌 ~信じがたい事態~」
「【TPP】医療制度崩壊を招くTPP参加」
「【TPP】その先にあるFTAAP ~国家ビジョンの不在~」
【TPP】米国製薬会社の要求 ~日本医療制度の営利化~
【TPP】蚕食される医療保険制度 ~審査業務という盲点~
【経済】TPP>米韓FTAの「毒素条項」 ~情報を隠す政府~
【経済】TPPは寿命を縮める ~医療と食の安全~
【経済】中野剛志の、経産省は「経済安全保障省」たるべし ~TPP~
【経済】中野剛志『TPP亡国論』
【震災】原発>TPP亡者たちよ、今の日本に必要なのは放射能対策だ
【経済】TPPをめぐる構図は「輸出産業」対「広い分野の損失」
【経済】TPPで崩壊するのは製造業 ~政府の情報隠蔽~
【経済】中国がTPPに参加しない理由 ~ISD条項~
【社会保障】TPP参加で確実に生じる医療格差
【社会保障】「貧困大国アメリカ」の医療 ~自己破産原因の5割強が医療費~
【経済】TPPとウォール街デモとの関係 ~『貧困大国アメリカ』の著者は語る~
【経済】TPP賛成論vs.反対論 ~恐るべきISD条項~
【経済】米国は一方的に要求 ~TPP/FTA~
【経済】伊東光晴の、日本の選択 ~TPP批判~
【経済】伊東光晴の、TPP参加論批判
【経済】TPPはいまや時代遅れの輸出促進策 ~中国の動き方~
【震災】復興利権を狙う米国
【読書余滴】谷口誠の、米国のTPP戦略 ~その対抗策としての「東アジア共同体」構築~
【読書余滴】野口悠紀雄の、日本経済再生の方向づけ ~外資・外国人労働力・TPP・法人税減税~
【読書余滴】野口悠紀雄の、中国抜きのTPPは輸出産業にも問題 ~「超」整理日記No.541~
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5トンの材料から11トンのハムができる。
(2)今年4月、焼肉大国の韓国で、クズ肉を集めて人工的に作られた「整形カルピ」が大量に出回っていることが報道され、国民にショックを与えた。米国、ドイツなど産地が異なる牛肉にクズ肉を結着した「多国籍カルピ」、骨のない外国産牛肉に食用接着剤で骨を付けた「骨付きカルピ」が、韓国産牛肉に偽装されていたのだ。日本人観光客が多数訪れる有名焼肉店でも出されていた、という。
(3)実は(2)のような加工肉は我が国でも珍しくない。40年ほど前に開発された「成型肉」がそれだ。当時、牛肉は高級食材だった。捨てるようなクズ肉や牛脂を使って、庶民にも手が届くよう加工した。
<例>スーパーなどで販売されているサイコロステーキは代表的な成型肉だ。赤身肉と脂身が不自然に混ざり合い、一目で人工的に作られた肉であることがわかる。
(4)技術の進歩もあって素人目には天然の肉と見分けがつかない「霜降り加工」を施した成型肉が安価な焼肉店、ステーキ店、しゃぶしゃぶ・すき焼き店、ファミリーレストランなどに出回っている。
食べ放題、1皿200~600円台のカルビ肉を出している激安焼肉店、千円以下で提供しているステーキ肉店・・・・では、大量に成型肉を使っているところもある。
米国、オーストラリアなどの外国産牛肉に、国産牛の脂身を打ち込んで霜降り加工肉を作るケースが多い。脂は国産のほうが上。牛脂の質がよいと、どんな肉でも美味しく化けてしまう。とはいえ、牛脂が固まらないように注入するには乳化剤を添加する必要があるし、乳化剤の味をごまかすために化学調味料を加えたりする。
(5)成型肉を大別すると、次の3つあって、こうした成型肉の製造・販売は合法ではあるが、品質をごまかしやすく、消費者は知らずして食品添加物を摂取してしまう可能性がある。
(a)結着肉・・・・ハラミなどの内臓・腹横筋・脂身・すね肉・肩肉などの端肉をかき集め、食品結着剤を使って固めた上で、食べやすい大きさにカットしたもの。結着剤の中に含まれていることのあるリン酸塩は摂取しすぎると骨を弱くするが、退色防止になるし、弱アルカリ性なので、肉を日持ちさせる効果がある。<例>サイコロステーキ。牛横隔膜などを吸うまい重ね合わせた肉(「ミルフィーユ」)。
(b)霜降り加工肉(インジェンクション加工肉)・・・・近年めざましく進化。剣山のような注射器針の機械で圧力をかけながら練乳、牛脂を肉に注入して作り上げる。和牛霜降り肉と見分けがつかないレベルに達している。市場規模は年間6千トンにもなり、牛肉のほか馬肉、豚肉にも用いられる。
(c)やわらか加工肉・・・・肉の筋や繊維を細かく切断し、酵素添加剤を加えて肉をやわらかくしたもの。ハラミなどによく使用されている。その過程で化学調味料を染み込ませて肉に味つけする場合も多い。
(6)肉をやわらかくするために主流となっているのが酵素添加剤(パパイン酵素など)。これと結着剤などの添加物を小さなブロックにカットした硬い肉にまぶし、型に入れて押し固めたものが「カットビーフ」なる結着肉。ハムのようにどこを切っても同じ形になる。厚みを指定するだけでロスなくグラム計算できる。
こうした成型肉は、食べ方に注意しないと食中毒の心配を伴う。成型肉は、しっかり焼かなくては安心して食べられない。スーパーなどで販売する場合、「加工肉」であること、「中まで火を通してください」の表示が義務づけられている。しかし、ステーキ以外の外食産業は、いまだに法的に義務化されていない。ほとんどの消費者は成型肉であることを知らずに口にしている。
(7)2009年、ステーキチェーン店「ペッパーランチ」で、成型肉の角切りステーキを食べた43人にO-157食中毒が発生した。
肉は大きなブロックにカットされて運ばれてくるが、肉の外側面は大気、人の手、機械、刃物などに触れる可能性があるため菌が付着しやすい。他方、肉の内側は雑菌がないので、普通の肉は表面さえ焼けばレアでも食べられる。しかし、成型肉の場合、加工の際に針、刃などで切り込みを入れることで外側の菌が内部まで侵入してしまうことがある。
だから、成型肉は、仲間でしっかり火を通す必要がある。
ペッパーランチでは、客が自ら肉を焼いていたため、レアやミディアムで食べた人が食中毒になった。
ペッパーランチのような食中毒は、いつ起きてもおかしくはない。激安焼肉店に成型肉が大量に流通しているからだ。
焼肉店では客が自ら肉を焼く。店側の表示が不十分な場合、客が生焼けの肉を食べてしまう可能性が高い。そもそもカルビ肉は、半生で肉の柔らかさが残っている状態で食べるものが美味しい。よく焼いてしか食べることができない成型カルビ肉はを焼肉店で提供すること自体、無理がある。
東京都は、飲食店に成型肉の中心部を75度で1分間加熱の徹底を指導している。「肉をよく焼いてください」「肉を焼くときはトングを使ってください」などとメニューや貼り紙に表示するよう指導している。
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