語られる言葉の河へ

2010年1月29日開設
大岡昇平、佐藤優、読書

【映画】不幸な男たちの最高の時間 ~『パリの天使たち』~

2015年12月30日 | □映画
 幸福な家庭は互いに似かよっているが、不幸な家庭はそれぞれの不幸を異にする。
 他の家庭と似かよった家庭の主ミシェル・ベルチェ(ジェラール・ジュニョー)は、ある日、業績不振を理由に、寝具メーカーの管理職をリストラされてしまった。
 ミシェルは、航空会社スチュワーデスの細君にほんとのことをいえない。ウソを重ねているうちに、細君の預金を遣いこんでしまった。
 なにもかもバレてケンカになり、売りことばに買いことばで、家出する。

 夜の公園で出会ったホームレス3人にそそのかされ、男をクビにした職場から毛布を盗むことにした。
 しかし、仲間の一人が、男の唯一の財産を運転して遁走。車を勝手に処分したあげく、麻薬でショック死寸前となる。
 男たちは、彼をみつけて、あたふたと病院へ運んだ。

 ふたたび窃盗に挑戦するが、あわや逮捕寸前となった。元の同僚は憐み、ミシェルは見逃してもらった。
 逃げたもう一人の仲間は、後に単独で盗みにはいったところ、事故死。
 逮捕された仲間の一人は、警官に移送される途中で格闘し、転落死する。
 逮捕されたもう一人の仲間は、出所後、警備員の定職に就いた。

 ミシェルは、定職に就いた仲間から諭され、細君とよりを戻すことにする。その仲間は、ミシェルとたまたま再会したその息子から「帰ってきて」と乞われる様子を目撃していたのだ。
 ミシェルは偶然をよそおって細君と再会するが、豪勢な生活をしていたというウソは、すぐさまバレてしまった。見え見えだったのである。
 だが、「淋しかった」と泣き出す細君。右であれ左であれ、わが祖国。いや、失職しようがホームレスだろうが、わが夫・・・・。

 誰にでも起こり得る失業。ことに昨今の日本で増加している失業者、ホームレス。
 きみたちに明日はない。きみたちの背後にあるのは 社会の最底辺だ。

 とはいえ、この映画、暗い話なのに、全編が妙に明るい。ほのかなペーソスというか、墓掘り人夫のような陽気さというか。人は最悪のときにもっともよく笑う。これが監督・主演のジュニョーの哲学らしい。
 邦題は、よくできた意訳だ。原題は、“Une Epoque Formidable”、「素晴らしい(最高の)時間」。
 ミシェルたちホームレスは生活が切迫しているわりにノンシャランだし、シャルル・ドゴール空港やノートルダム寺院といった名所に出没して映画の観客を楽しませてくれる。
 余談ながら、識者によれば、フランスではホームレスのことを今ではSDF(Sans Domicile Fixe、決まった住居がない者)と呼ぶらしい。従来は、クロシャール(clochard、浮浪者)と呼ばれていた。1980年代、フランスのホームレスに質的な変化があって、呼称が変わったという。

□『パリの天使たち』(仏、1991)
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