「風間陽水の依頼簿（カルテ）・1203」

カルテ番号　れ・1（1）

冷泉（れいせん）美和は時々苗字で誤解される。
故郷は山口県だが、大学が京都だった。
そこで冷泉（れいぜい）家という貴族がいる事を知った。
京都では有名だが、美和のいた山口県では単に珍しい苗字だった。
同じ苗字は広島県にもあるようだった。
遠い祖先の事は知らないが、美和の家は普通のサラリーマンだった。

京都時代は、名前を書いたり名乗ったりするだけで訊かれた。
そして勝手に思われた。冷泉家の一族だと。
その度に否定するのだが、相手は信用してくれない。
美和の温和な顔立ちと話し方も拍車をかけているようだ。
美和は何らかの事情を抱えた一族だと位置付けられた。
どう言っても信じてくれないので、あきらめた。
一言、関係ありません、と言うだけで、後は黙る事にした。

その煩わしさもあって、卒業後は一時東京に就職した。
それでも、時々は冷泉家を知っている人もいる。
そして、同じように誤解された。
会社の支社が北関東といわれる地方都市にあった。
仕事で訪れ、どうしたわけか、その土地が気に入った。
理由はわからないが、美和にとって楽な土地だと感じた。
そこで、転勤願いを出したのが、今から15年前だった。

（登場する人物・組織・その他はフィックションです）
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