水上陽平流の表現でいろいろな事を書いています。本館は http://iiki.desu.jp/ 「氣の空間」
カルテ番号 ほ・19（24）
それから御主人様の具体的な話が続いた。
確かに今までにない仕組みだ。
しかも、国全体の規模、いいや世界規模まで伸びる可能性がある。
それも、初期投資など最小限で、無理なく拡大できる方法だ。
これなら関わる誰もが生き甲斐を感じるだろう。
そして、立ち上げ時の人数はここにいる３人からだという。
それぞれの得意分野からの出発だが、固定されていない。
やれるか、無理か、ではない。
自信も経験も条件にはない。
やりたいか、だけが問われる。
本庄瞳は、ワクワクした。
もちろん、やりたい。
そして、決まった。
こんなに急展開で変わる事もあるのだ。
それにしても・・・
これを予測した、あの院長が普通の人間とは思えない。
次は、もっと正面から問い詰めてみたい。
（登場する人物・組織・その他はフィックションです）
（過去のプログは本館 「氣の空間・氣功療法院」です。
治療・若返り・講演、お話会依頼、悩み相談受付中。日本中出張します。
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１８年間封印していた本物の「氣入れパワーストーン」を販売開始 「笑顔の雑貨屋Ｙａｋｋｏｏ」)
カルテ番号 ほ・19（23）
「ところで・・・」と御主人様が少し改まって話し始めた。
「本庄さんにも聞いて欲しいのだが、そこに座って下さい」
本庄瞳は今日、治療院の院長が最後に言った言葉を思い出した。
『もしかしたら、辺見さんは本庄さんをスタッフに誘うかもしれない』
御主人様は本庄瞳を見据えて話し出した。
おそらく、樋口氏にはもう話したのだろう。
「本庄さんには、それとなく話してあったが、新たな仕事を始める準備をしている。
今度の事業は、以前のような商売を意識しないものです。
非営利団体のＮＰＯにするかどうかは未定ですが・・・
あれは・・・税金という予算を当てにする、結構うさん臭い団体も多い。
私は、言葉巧みに税金を使うやり方は好きではない。
肝心の内容だが、簡単にいえば、一定の年代以上を対象とした生き甲斐のコンサルタントだ」
そこで言葉を止めたのは、本庄瞳の反応を促しているのだろうと思った。
「生き甲斐といっても、多種多様だと思われますが、具体的には？」
うん、と御主人様は頷いた。
「その、多種多様を相手にしようと思っている」
そして、ニヤっと笑った。
どうやら、御主人様の期待通りの反応をしたようだ。
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カルテ番号 ほ・19（22）
「樋口さん、この人が我が家を守ってくれている本庄さんです。
本庄さん、こちらが私の山の師匠、樋口さんです」
「樋口新太郎です。どうぞよろしく」
サラリという感じで先に頭を下げられてしまった。
「本庄瞳です。こちらこそ、よろしくお願いします」
今日は御主人様が樋口氏に来ていただいたのだそうだ。
ぜひとも、樋口氏に手伝ってもらいたいので接待だそうだ。
料亭で食事でも、と思っていたらしい。
ところが樋口氏は気楽に時間を過ごせる方がいいというので、急遽自宅に変更になった。
御主人様としては、隠すことない付き合いをしたかったのだろう。
だから、とても嬉しそうだった。
「そういえば、お二人共、独身でしたね」
御主人様がいきなりそう言った。
「それをいうなら、三人共です。
もっとも私はバツイチですが・・・」
「私は女房に先立たれた男ヤモメです」
そう言った御主人様には、もうこだわりの影はなかった。
「私は最初から縁のない、独身男です」
樋口氏もそう答え、三人して大笑いした。
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カルテ番号 ほ・19（21）
本庄瞳は少し考えてからいつもと違う淹れ方をした。
アッサムの葉を熱湯前の湯で開かせる。
ミルクを沸かして、沸騰寸前にアッサムの葉を多めに入れる。
葉が沈み、頃合いを見計らって紅茶こしでカップに注ぐ。
お客様に持っていくと、一目見て言った。
「ロイヤルミルクティーですね。
私の好きな淹れ方です。ありがとう」
こういう人は、打てば響くとでもいうのだろう。
御主人様が目を細めて喜んでいる。
なるほど。
本物の素敵な男同士。
今までの利害関係や商業関係とは違う付き合いなのだろう。
言葉に誠意と飾り気のない素直な気持ち良さがある。
本庄瞳は急に運命が動き出した気がする。
僅かの期間で、御主人様、治療院の院長、そして、この山男。
例えていえば・・・トキメキの男達の世界に係わっている。
自分が贅沢な期間に入っている、と感じた。
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カルテ番号 ほ・19（20）
玄関で声をかけてから中に入る。
玄関にもう一人の靴があるから、お客様がいると判る。
応接間の扉が開いたままで、中から楽しそうな会話が聞こえる。
「いらっしゃいませ。
何かお飲物でもお持ちいたしましょうか？」
いらっしゃいませ、はお客様に。
飲み物については、御主人様に向かって挨拶した。
「おお、ちょうど良かった。
この人は紅茶が好きなのだそうだ。
私も同じで頼む」
「はい。お客様、何か銘柄の指定がありますか？」
お客様は、御主人様よりやや若いと思える年代だった。
かなりガッチリとした体型で、すぐピンときた。
この前、御主人様が出会った山の人なのだろう。
「あればアッサムのミルクティーをお願いします」
サッパリとした口調で、本庄瞳も好印象だった。
「ございますので、お持ちいたします」
ストレートならダージリン。
ミルクティーならアッサムを出している。
ヒマラヤなどの北インドやネパールへ行く山男達が好きだと聞いたことがある。
もっとも山で飲むのはかなり砂糖を大量に入れるらしいが・・・
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カルテ番号 ほ・19（19）
本庄瞳は次回の予約をして治療院をあとにした。
今回は御主人様の事で訪れた。
それが、自分の変化に驚いた。
次は純粋に気功を味わってみようと思った。
それに、幾つかの何故？がある。
今日は休みをいただいていたが、辺見邸に寄ってみる。
本庄瞳はアパートに住んでいる。
ハウスキーパーとしての仕事は定時ではない。
その為、辺見邸には仮眠などに使う本庄瞳用の部屋もある。
もちろん泊まれるようになっている。
だが夜が遅くて、朝が早い場合でも本庄瞳はアパートに帰っていた。
プロとして、壁を作っている。
御主人は今夜かなり遅くなる予定だった。
食事の用意も不要とのことだった。
だから、辺見邸に御主人様の車があったので予定が変わったのだと思った。
まだ午後の２時だった。
体調でも悪くなったのだろうか？
いいや、最近の様子から、それは考えられない。
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カルテ番号 ほ・19（18）
御主人様が仕事で何をしようと関係なかった。
家を守るのは、そこに暮らす人が生き生きと毎日を過ごせればいい。
仕事の内容など、本庄瞳にはどうでもいいことだった。
それが、もしかしたら仕事のスタッフ？
そう聞いただけで、急に世界が広がってしまった。
本庄瞳は一つの事に夢中になると他の事など気にしなくなる。
直線で走るタイプだった。
離婚して、プロのハウスキーパーとして満足していた。
だが、あの御主人様と仕事が出来るなら・・・
何の仕事だか知らないが、とてもワクワクしてくる。
おそらく、それまでの自分の知らない世界だろう。
知らない土地、知らない世界を見たがるのは性分かもしれない。
御主人様から、その話があったわけではない。
赤の他人の、この院長が勝手に推測しただけだ。
それなのに、何故か既成の事実のような気がしていた。
きっと、そうなる。
この院長が言ったなら・・・
僅か、数時間で本庄瞳はこの院長への印象が全く変わってしまった。
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カルテ番号 ほ・19（17）
院長は微笑んだ。
「本当に本庄さんは素直で素敵な女性ですねぇ。
雇い主の辺見さんを心配しての行動とはいえ、プロのハウスキーパーですねぇ。
決して思い込みだけでなく、違うと思ったら素直に認め修正する。
簡単なようで、自分の間違いを素直に言えないものですよ。
でも正直すぎて、最初から疑っていた顔でしたよ」
本庄瞳は顔が赤くなるのを感じた。
「すいません、本当に恥ずかしいです」
そして、気づいた。
何故院長が言い訳のように、普通を強調していたのかを。
本来なら、この院長なら言い訳などしないだろう。
何を思われても、特に気にはしないだろう。
院長はじっと本庄瞳の顔を見て、
「もしかしたら、辺見さんは本庄さんもスタッフに誘うかもしれませんねぇ」
と言った。
「え、何の事でしょう？」
「今度立ち上げる事業は、辺見さんの好きな人を集めて、好きな事をするようです。
だから・・・本庄さんも誘うかもしれません」
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カルテ番号 ほ・19（16）
本庄瞳はその言葉を考えた。
「先生は、私のワガママを褒めてくれているのですね。
私、親しい人が私の事を何て言っているか知っています。
また、言われるのは当然だと思っています。
私がワガママを通す為に周りの人に迷惑をかけたのは事実です。
それでも、先生は褒めてくれるのですね」
院長はニッコリと笑った。
「当然ですよ。
私は生命を大切にする人を褒めます。
社会的なんて関係ありません。
本庄さんは生命に素直な素敵な人ですよ。
そして、これからも生命を大切にして下さい」
本庄瞳は頭や身体だけでなく、心も軽くなったのを感じた。
「先生、すいません、正直に告白します」
「なんでしょう？」
「今日、ここに伺ったのは、私の雇い主の辺見さんの事でした。
急に変わられたので、何か怪しい事をされたのではないかと・・・
すいません、先生を疑っていました。
変わったのは、生命が生き生きしたからなのですね」
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カルテ番号 ほ・19（15）
院長は優しく、ゆっくりと言った。
「ワガママは素直の別名ですよ。
私は生命を軸にして話しています。
治療、健康、若返りなどは生命が中心ですからね。
赤ちゃん、幼児の時期は生命が生き生きしています。
その時、大人からみれば彼らはワガママであり、素直でもあります」
本庄瞳は院長の言葉に反論した。
「赤ちゃんや幼児のワガママは許容範囲です。
でも大人のワガママは周りの迷惑です。
決して褒められたことではありません」
院長は頷いた。
「そうですね。大人のワガママは褒めてくれませんねぇ。
でも、生命は本人の世界です。
褒められる必要も対象でもないのです」
院長は一息ついて、そして言葉を続けた。
「褒めるのは、良いとか正しいとかですね。
でも、それは社会、人間社会の基準、ルール、常識です。
更に詳しくいえば、その時のその国や地域だけの基準となります。
同じ日本でも、時代や地域が異なれば、良い、正しいも変わります。
社会という世界は、生命の世界とは別な基準なのですよ」
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