この撫牛はおそらく今戸のものではなくて、伏見、深草の辺りの産のものではないかと思っています。瓦質でできています。
日本全国に瓦質、土焼きに彩色、木彫りなどさまざまな撫牛がかつては作られていたと思います。お寺によくある「おびんづる様」「撫仏」などと同様神社の境内にもおおきな「撫牛」があり、願いを込めて撫でる(自分の体の問題のある部位を)と平癒するとか、牛であれば眉間に「梅鉢」だの「宝珠」だの「大黒様のレリーフ」があってそこを撫で擦りながら心願すれば幸せになれる。最近どこかの神社で付け焼刃のようなエイリアン風の招き猫が雨後の毒キノコのように出現していますが、上記の先例をぱくったものではないでしょうか。
撫牛も記録などでは大流行し、京都の伏見をはじめ各地で作られ、家内にお祀りして心願する。ということが各地にあったようです。
中でも有名なのは延享年間に伏見で起こったという撫牛製造者どうしの「本家争い」です。「保寿軒」という窯元と「木村虎悦」という製作者の間で争われ、それぞれ本物はうちのだ、まがい物に注意しろ、といったビラも配られていたとか、、。これに似ているのが嘉永5年の浅草寺境内(三社権現鳥居横)での「丸〆猫」の本家争い。近世遺跡から「丸〆」の陽刻のある招き猫と「本丸〆」のものとが出土されています。
さて、画像の撫牛に出会ったのは、まだ20代の頃、谷中、根津、千駄木界隈をときどき歩いていたある日、昔流れていた「藍染川」の跡である「へび道」から曲がって入っていったところに「古道具屋」があり中古の湯呑み茶碗だとかコップや花瓶、行火とかガラクタに混ざってこの牛があったのです。
お牛さまの鼻の部分穴が通っていますが、当時穴に凧糸のようなものが通してあり、その店の中では壁のフックに紐でぶる下げてあったんです。
面白いな、と思って値段を聞いたら「安い!」当時の物価でマックのチーズバーガーセットより安かったのですぐさま買い求めて帰りました。
偶然に手に入れたものでも新しく買った本とか、寝しなに枕元で読んだり、眺めたりしませんか?そうしていつの間にか眠りに入ったのです。
夜中に息苦しくで目を覚ますと、目は見えるが体が金縛り状態で身動きできない、声も出せない。すごく重いものの下敷きになっているように苦しい、、、、自分の布団の真上に大きな黒い牛が蹲っていて、私の顔を見つめているんです。牛さんの瞳って純粋で穢れのない澄んだ目ですよね。
その眼で私を見ているんですが、「モー」とも何も言わない、、。予期せぬことなんでびっくりして、、。そういう金縛り状態がその夜何度もありました。牛さんの背後にはエメラルドグリーンとバイオレット色の煙のようなものが渦巻いていました。
そういうことが何日かあって、牛さんが何か訴えているのではないか、、、そうだ鼻の穴に通してある凧糸が嫌なのかと思い、はさみで切りました。
それ以降夜中に姿を見せなくなりました。その後部屋の状況によっていろんな場所に移動させていましたが、ひどいことに一時、アトリエのイーゼルの横に置いていたこともあり、飛び散ったウルトラマリンの油絵の具が背中にくっついてしまったままでした。でも絵の具がくっついたと言って夜中に出てくることがありませんでした。固まった油絵の具は「ストリッパー」、という溶剤を塗って暫く置いてから拭き取ることはできるんですが、せっかく時代を経た質感をダメにしてしまうのも嫌だし、「痛い」といってまた布団の上に出てきやしないかと二の足を踏んでいました。(ストリッパーが肌につくとひりひり痛くなるんです。)
今のところ夜中に出てきません。もしかすると十五夜さんが一緒にいるから遠慮しているのかもしれません。