福岡市は、昨日(21日)、国の重要文化財である「福岡市赤煉瓦文化館」に「エンジニアカフェ」なるものをオープンさせた。これは、国家戦略特区(グローバル創業・雇用創出特区)の一環として、福岡市が進めているスタートアップ政策の第2弾で、AI(人口知能)やIT(情報技術)などのエンジニアを育成するために開設された。ここでエンジニアやエンジニア志望の学生が作業したり、勉強会を開くことができるという。2年前(2017年)、旧大名小に開設された起業家の集まる施設「フクオカグロースネクスト」に次ぐものである。
ITを活用した現場も多くなっている昨今、特に建設現場の人材不足は深刻であり、こうしたエンジニアの育成は不可欠だろう。それゆえ事業に反論するつもりはない。問題はその場所である。「福岡市赤煉瓦文化館」は、東京駅の設計で有名な建築家辰野金吾と片岡安の設計により、明治42年(1909)、日本生命保険九州支店として誕生した。昭和44年(1969)には国の重要文化財に指定され、市に譲渡された。平成2年(1990)3月まで市の歴史資料館として活用され、平成6年(1994)には建築当時の内装を復元し、「福岡市赤煉瓦文化館」としてリニューアルオープンした。赤煉瓦と花崗岩を組み合わせた煉瓦建築は、19世紀末、英国で流行したクイーンアン様式を今に伝えるもの。内装はアールヌーボーの風合いが随所に見られるので、建築ファンも多い。そこを改装したのである。重要文化財のため、改装は一部とはいえ、見るに堪えられないもの(本質的に全く違う空間)になってしまった。
そもそも、この事業はいつ決定したのか。ましてや重要文化財を利用するなど寝耳に水。議会へ諮られたのか確認してみたが形跡はない。調べてみると、今年2月、高島市長はこの事業に重要文化財を利用すると発表していた。(全く知らなかったが)その時の記者会見資料を読むと、赤煉瓦館の来場者が少ないから(利用する)といった趣旨の発言がある。ならば来場者を増やすのが市長の仕事だろう。こういう重要なことを思い付きで決められてはたまらない。(本人はそこを自画自賛しているが)何より、市民の意見を聞くことなく独断で決めることが問題なのである。
いつものことだが、高島市長は広く市民の意見を聞かない。(というか議会の言うことも聞かない)自分に賛同してくれる身内の意見のみ聞いて、トップダウンで実行する。2年前、福岡市は若い起業家を育成するため旧大名小に「フクオカグロースネクスト」を開設させた。大名小学校は1873年(明治6年)、大明小学校として開校した市内で一番古い学校であり、近代建築としても貴重なものだった。しかし、ここも特区の場と化してしまった。小学校の保存を希望する市民の声は届かなかった。
今朝、高島市長は公式ブログに「エンジニアカフェ」の記事をアップしていた。見ると、赤煉瓦文化館はエンジニアの聖地なのだという。思わず失笑してしまったが、確かに歴史の場を活用していくこともあるだろう。しかし、忠実に残していかなくてはならない歴史もある。そこの区別がこの人にはつかないのだろう。それにしても、どれほどのものが失われてゆくのだろうか、国家戦略特区のために。
《追記 2019.8.23》
先月23日の西日本新聞の記事を読むと、この改装費に2400万円をかけたとある。(あり得ない額だが)そこで2月議会の議案を確認してみた。すると31年度当初予算案の概要の中にスタートアップ関連の事業費約2200万円が計上されていた。しかし、そこには重要文化財を改装するようなことは一切書かれていない。果たして、議会は(改装を)承知の上で予算案を可決したのだろうか。確認する必要がある。
福岡市赤煉瓦文化館 外観はそのままだが、、(写真:福岡市経済観光文化局資料より)
エンジニアカフェサイトより (近いうち現調する予定なので、実際の写真は後日掲載します)
内装は一部改装されて、大名小と同じようなデザインに これをみたら辰野金吾はなんというか、、
構造用合板で間地切 壁が扱えないからだろうが、、
実は、福岡市赤煉瓦文化館には条例がある。福岡市赤煉瓦文化館条例によると、契約期間が終了すれば、原状復帰をしなければならないとある。特区の場合どうなるのかわからないが、高島市政が終わるまで元に戻せないということになるのか。いずれにせよ、次の市長に期待するしか、、
《関連記事》
・IT技術者福岡に集まれ 赤煉瓦文化館に交流拠点(西日本新聞 2019.7.22)
・福岡・天神、ITエンジニアの交流拠点始動(日本経済新聞 2019.8.22)
《関連資料》
・福岡市観光経済文化局。福岡市の文化財
・ 福岡市。特区通信