今月7日に開会した福岡県議会9月定例会の本会議で、背振山中に埋設されている枯葉剤(245T剤)問題が取り上げられた。先週20日、高瀬菜穂子議員(共産党)の質問に小川知事が答えた。山口に居たため、議会中継を見ることができなかったが、高瀬議員の公式ブログにその時のやりとりが掲載されているので、ここで紹介したい。(以下、原文のまま)※録画はこちら
▶高瀬議員質問:「枯葉剤埋設問題」について
ベトナム戦争時に使用された枯葉剤と同様の成分の除草剤が県営五ケ山ダムから1キロの山に埋設されている問題について伺います。
ベトナム戦争時、敵が隠れているジャングルを枯らすために米軍が使用した「枯葉剤」が、これに含まれる猛毒ダイオキシンによって、二重体児や奇形、無脳症などの出産異常を引き起こしたことはあまりにも有名です。この枯葉剤の「245T」と呼ばれる成分は、日本国内、本県の三井化学でもつくられました。そして、製造過程でつくられる副産物、塩素酸ソーダやPCPと呼ばれる成分とともに、除草剤として日本の山林や水田に大量散布されたと、枯葉剤の研究者、北九州市立大学の原田和明氏が指摘しています。除草剤の毒性が叫ばれ、1971年に行われた245Tの鳥類への影響実験で、ウズラ48羽中45羽が死ぬなどの結果を受け、林野庁は、この年、245Tの使用中止に追い込まれました。その後、これを国有林などに埋め、40年以上も放置してきました。
福岡・佐賀県境近く、吉野ヶ里町坂本峠が、7月5日の豪雨による土砂崩れで通行止めとなりましたが、この坂本峠付近の国有林の一角に猛毒245T剤が埋設されている問題を西日本新聞8月23日付けが大きく報じています。「245T剤を埋没(ママ)してありますので囲い内の立ち入りや土石等の採取をしないでください」との看板が立つ緑のフェンスで囲われた区域は、数メートル先に九州自然歩道の散策路があり、1キロ下には五ケ山ダムが完成したばかりです。林野庁は、廃棄に際し、「除草剤の10倍程度に当たる量の土と混ぜ、セメントで固めてコンクリート塊にし、水源から離れた地中に1箇所300キロ以内の分量で埋めるよう」通達を出したとのことですが、ここ坂本峠には、決められた分量の3倍以上、945キログラムが大量投棄されたことを林野庁も認めています。
そこで知事に伺います。このような事実について県は認識していたと思いますが、林野庁に対して撤去の要請は行ったのですか、伺います。猛毒245T剤の撤去又は無害化処理を行わないまま、わずか1キロ下流に五ケ山ダムを建設したことについて、どのような検討がされたのですか、お答えください。
また、このたびの豪雨災害で土砂崩れが起こり、地中漏出も考えられますが、今後、どのように対応するつもりですか。周辺の土壌調査、水質検査及び、埋設物の撤去が早急に必要だと考えます。知事の見解を伺います。
▶小川知事答弁:「埋設除草剤撤去の要請」について
お答えを申し上げます。埋設除草剤撤去のこれについての要請でございます。林野庁佐賀森林管理署は、昭和46年に林野庁の通達を受けまして、佐賀県吉野ケ里町の山林に除草剤をセメントにより固化をし、モルタルやビニールで覆って埋設をしております。
県といたしましては、除草剤が五ケ山ダムや南畑ダムに近い場所に埋設をされておりますことから、毎年度、佐賀森林管理署に対しまして、埋設地の一層の適正管理を行うとともに、抜本的な解決に向け、処理方法を検討するよう要請を行っているところであります。
これに対しまして、林野庁は、埋設除草剤の撤去には飛散等の危険が伴うため、埋設箇所への立入り及び土石採取などの行為を禁止し、モニタリングを継続していくことが、最善の方策であるとそういう見解を示しております。そして佐賀森林管理署におきましては、月2回の現地点検、定期的な土壌及び水質の調査を実施してきておりまして、これまで異常は認められない旨の点検結果を定期的に受けているところでございます。
▶小川知事答弁:「五ケ山ダム建設における、埋設除草剤の影響の検討」について
五ケ山ダムへの影響でございます。県といたしましては、森林管理署が実施をしております点検や調査に加え、利水者でございます福岡市が実施をしております年1回の水質調査におきましても、いずれも異常が認められていないことから、国が適切に管理をしてこのように認識をし、五ケ山ダムの建設を進めてまいりました。
▶小川知事答弁:「埋設除草剤への対応」について
次に埋設除草剤への対応でございます。これまでに実施をされました国や市の調査におきましては、異常が認められておりません。このため県といたしましては、引き続き埋設除草剤の管理者でございます林野庁に対し、定期的に土壌及び水質調査を実施するなど、その埋設地の一層の適正管理を行うとともに、抜本的な解決に向け、処理方法を検討するよう要請を続けてまいります。
▶高瀬議員再質問:「枯葉剤埋設問題」について
「枯葉剤」埋設問題について再質問いたします。驚くべきご答弁だと思います。245Tは猛毒だから、水源に埋設してはならないと林野庁が通達を出しているのに、県はわずか1キロ地点に水源となる巨大ダムを作り、しかも、独自に水質検査、土壌検査もしていない。福岡市の年1回の水質調査で異常がないから、五ケ山ダムの建設を進めたとは、あまりにも無責任ではありませんか。佐賀森林管理署の月2回の点検は目視であり、定期的な土壌・水質検査は47年間にたった6回ということです。これで命の水がまもれるのでしょうか。ダム建設の中で、撤去や無害化処理を行うこともできたと思いますが、そのような検討はしなかったのですか。お答えください。
県管理のダムですから、少なくとも水質・土壌調査は県が独自に行い、その結果を公表すべきだと思いますが、この点についてはどうお考えでしょうか。撤去など抜本的な解決を国に求めるのは当然ですが、国がすぐにできないのならば、ダムを作った県が撤去・無害化処理を代わって行うべきと考えます。想定を超える災害が続いており、山崩れなどの危険もある中です。知事の前向きな答弁を期待し質問を終わります。
▶小川知事答弁:「埋設除草剤への対応(再質問)」について
先ほど、ご答弁申し上げましたように、県としましては、埋設除草剤の管理につきまして林野庁が最善の方策であると見解を示していること。また一方で森林管理署、福岡市が実施した点検や調査においてもこれまで、それまでの間、異常が認められませんでした。そのことから国が適切に管理をしていると判断したところであります。除草剤の管理者である国および利水者である福岡市が今申し上げましたように、定期的に検査を行いこれまで異常が認められておりませんから、現時点では、県が調査をすることは考えておりません。またこの埋設地の適正な管理あるいは抜本的な解決に向けた処理の方法、それについては国がしっかりと行うべきものであると考えており、それらについて要請を続けていきたいとこのように考えております。
以上が、高瀬議員と福岡県小川知事のやりとりである。
小川知事は、国や福岡市が適切に管理しており、異常はないと言っているから問題はない。今後も調査するつもりはないと答弁している。まあ、ここまで断言されるとは思わなかったが、本当に問題はないのか。21年前、埋設場所での異変を問題視した入江議員(社民党)は、当時の麻生知事に早急に対応するよう求めた。それに対し、麻生知事は、相手は営林署ではあるが、土壌分析など安全性の確認をして、今後の処理問題について最大の努力をすると答えていた。しかし、その結果は明らかにされていない。土壌や水質調査の報告書があるのかないのか、それすら明らかになっていない。小川知事が「問題ない」とする証拠はどこにあるのか。林野庁が行っている月2回の点検は目視であり、土壌・水質検査は47年間にわずか6回。一体、どこが安全なのか。まずは、安全だという証拠を出してもらいたい。
注目すべき点は、福岡県が五ヶ山ダム建設に際し、枯葉剤の危険性を認識していながら、独自に調査を行うことなく事業を進めたことだ。これは極めて重大な問題である。さらに、枯葉剤の撤去については、飛散等の危険があるから移動させずにモニタリングを継続していくという。つまり、それほど危険なものがあそこに埋まっているということである。放置しておけば、それこそどうなるかわからない。
枯葉剤埋設場所から約1キロ南にある五ヶ山ダムでは、現在、常時満水位を維持するため南畑ダムへの放流が行われている。水は福岡市民の水道用水として利用されている。何かが起きてからでは遅いと思っているが、肝心の福岡市議会は動きがない。そもそも五ヶ山ダム建設は福岡市の水不足を理由に進められた事業であり、これは福岡市民の命にかかわる問題である。何もしないわけにはいかないと思うが。
枯葉剤(245T剤)埋設場所 (9月2日撮影)
五ヶ山ダムから枯葉剤埋設場所を望む(写真中央左奥:9月2日撮影)
《関連資料》
・たかせ菜穂子の菜の花だより 9月議会一般質問「学校給食費無償化」と「『枯葉剤』埋設問題」についての質問と答弁
・福岡県議会HP