GIZMODO2024.01.16 23:00
Passant Rabie - Gizmodo US [原文] ( R.Mitsubori )
月を眺めればいつもそこに君がいる。
宇宙新時代の到来を告げる今回のニュース。宇宙が近くなるのはうれしいけど、SFとロマンの世界がちょっと崩れる感じ?
現地時間の1月9日、Astrobotic社による待望の月面着陸船“Peregrine”が、政府と民間のペイロード(貨物や機器など)を抱えてフロリダ州ケープカナベラルから宇宙へと飛び立ちました。
この船のペイロードはNASAの科学機器、メキシコの小型ロボット(大量)、そして現物のビットコインなどなど。そして、200人分以上の遺灰とDNAも積み込まれています。愛する人の生きた証を彼方の地へと送る、宇宙規模の追悼儀式が行われているのです。
宇宙関係者や歴代大統領のDNAも月へ
Peregrineによる宇宙追悼ミッションに協力しているのが、Celestis社とElysium Space社という2つの企業。集まった遺灰の中には、伝説のSF作家アーサー・C・クラークのDNAをはじめ、『スタートレック』の生みの親であるジーン・ロッデンベリー、さらに同作に登場するニヨータ・ウフーラ中尉役俳優のニシェル・ニコルズなどキャスト陣の遺灰も含まれています。
長年の『スタートレック』ファンであるバンクーバー出身のグロリア・ノウランさんも、今回のミッションに参加。彼女自身は12年前に亡くなっているのですが、8人の子どもたちが「母も一緒に飛ばせてやりたい」と希望し、彼女の遺骨もまた宇宙へと旅立つことになりました。
ちなみに、初代大統領のジョージ・ワシントンをはじめ、ドワイト・アイゼンハワー、ジョン・F・ケネディといった歴代大統領のDNAサンプルを含む毛髪もフライトに同行しています。
気になる月葬のお値段ですが、Celestis社では1万2500ドル(約181万円)から、Elysium Space社は1万1950ドル(約173万円)。
Elysium社は宇宙供養事業の新参者ですが、Celestis社は過去に13回、サブオービタル高度(100kmくらい)まで遺骨を運んでいます。しかし今回、同社はこれまでの高さを超えるサービスを提供することになります。
実は2023年5月、Celestis社の小型サブオービタルロケットが打ち上げ数秒後に爆発するという惨事が起きました。
今回はそうした万が一の事態に備え、各社は火葬した遺骨をすべて宇宙に飛ばすのではなく、なんというか、遺骨の象徴的な部分だけを載せています。
アポロ以来の月面着陸になるか
Peregrineはユナイテッド・ローンチ・アライアンスのバルカン・ケンタウルス・ロケットに搭載されて打ち上げられ、2月に月面着陸する予定。
これが成功すると、アメリカではアポロ以来の月面着陸となり、さらに民間初となる月面着陸成功を達成することになります。これは、NASAの民間向け月面ペイロード・サービス(CLPS)プログラムの一環で、アメリカ政府が出資する月面着陸計画「アルテミス計画」の一部でもあり、民間企業が月面に物資を輸送するのを支援するのが目的。
深宇宙へ民間企業がアクセスできるようになり、今後ますます月に届けられる貨物や機器の種類が増えることでしょう。Celestis社とElysium社のサービスは、友人や家族が愛する人に哀悼と敬意を伝えられるように配慮されています。
今回の打ち上げでは2種類のペイロード運搬が計画されており、1つが約2億4140万kmから4億8280万kmの深宇宙にある太陽周回軌道上に遺灰を含めた貨物を送るプラン。そして2つめが、Peregrine着陸船で月まで旅をすることになっています。ちなみに『スタートレック』関連のカプセルは太陽組なので、月に着陸することはないそうです。
月面着陸船で送られるペイロードには、1998年に亡くなった地質学者のパイオニア、マレタ・ウェスト氏や感情支援犬であるIndica君の名前もあります。
月を神聖視する民族から反対意見も
亡くなった方の遺灰を宇宙に送ることについては賛否両論があります。感動を覚える人もいれば、「不遜な行為だ」と懸念を表明する団体もいます。
例えばアメリカ先住民であるナバホ族のブウ・ニグレン大統領は、「月は多くの先住民文化にとって神聖な場所であり、人間の遺体を月に残すことは“冒涜に等しい”」と非難。NASAおよび米国運輸省に打ち上げ延期を要請していると、アリゾナ・パブリック・ラジオで報じられました。
NASAはこの要請について「検討している」と述べていますが、今後ますます月に物が送られるようになると、それを制御することもどんどん難しくなると思われます。
【続報】Peregrineは打ち上げ直後にトラブルに見舞われ、月面着陸が危ぶまれる状況に…。Astroboticは現在問題を修復中だと話しています。
https://www.gizmodo.jp/2024/01/lunar-lander-carrying-presidential-dna.html