好書好日 2025.03.12
世界各国で愛されているモンゴメリの名作小説『赤毛のアン』シリーズは、50年以上にわたるアンの人生を描きながら、その背景にカナダの激動の時代、文化、歴史、政治もつづる大河小説です。今日では再評価が進み、大人の文学作品として注目を集めています。作家の松本侑子さんは、日本で初めて『赤毛のアン』シリーズ全8巻の全文訳を手掛け、詳細な訳註を通じてモンゴメリ文学に光を当ててきました。『赤毛のアン』の奥深い世界を世に伝え続ける松本さんに、最新作『赤毛のアン論 八つの扉』(文春新書)について聞きました。(文:嵯峨景子 写真:篠田英美)
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――物語の舞台のカナダは多民族国家です。作中にはカナダの民族、歴史、政治、文化なども詳細に書き込まれています。
アンがスコットランドの民族衣装を身につけていることは、松本侑子訳『赤毛のアン』で初めて日本に紹介しました。アンはスコットランド系のカナダ人です。親友のダイアナは北アイルランドの服を着ています。この2人は古代ケルトの「アーサー王伝説』をお芝居にして遊ぶなど、ケルトの「アーサー王伝説」も、アン・シリーズの各巻に出てきます。『赤毛のアン』シリーズには、カナダの先住民族の時代から、第一次世界大戦までの歴史も書かれています。また保守党と自由党というカナダの二大政党の対立、二つの政党を支持する人々、国政選挙の選挙運動と開票、カナダの3人の首相もアン・シリーズに登場します。
しかしこうした描写は、従来はあまり正確に訳されていないようです。
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