人的資本理論によれば、会社員の能力には、どの会社で働いても通用する能力(一般的能力)と、その会社でしか通用しない能力(企業特殊的能力)があるとされています。
一般的能力は、転職しても通用するためポータブル・スキル(持ち運びできる能力)と呼ばれています。営業部門ならば対顧客交渉力、販売士(資格)などの幅広い知識がそれに当たります。
一方、企業特殊的能力とは、その会社特有の販売方法や代理店との人的なつながりなど、他の会社へ行けば使えなくなってしまうスキルです。
人材育成の業界では、別の会社でも通用するポータブル・スキルを身につけて「市場価値のある人材」になりなさい、とよく言います。
しかし、私はこうした考え方には非常に強い違和感を持っています。
私の知る限り、資格などのポータブル・スキルを身につけて華々しく転職した人は、おおむね転職後の評価は低い(わかりやすく言えば、昇格・昇給していない)ようです。
それに対して、転職後に成功している人は、ほぼ企業特殊的能力に優れています。
それは、なぜでしょうか?
たとえば、社内の人脈に通じていて、問題が起きたときに誰に相談すれば良いか知っているとか、自社独自の製品仕様については誰にも負けないほど詳しいというのは企業特殊的能力ですから、その会社の中でしか通用しません。
でも考えてみれば、社内の人脈に通じているということは良好な対人関係を築く力があるということですし、独自仕様に詳しいということは特定の技術を深く掘り下げて理解する能力があるということです。
それは、どんな企業であっても必ず役に立ちます。
一方、ポータブル・スキルは確かに転職の壁を低くしますが、転職後にどのくらい役に立つのかは不明です。
「自分は資格もないし、社内のことしか知らないから・・・」と思っている人こそ他の会社が欲しがるダイヤの原石かもしれません。
(人材育成社)