共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

「千年の一滴 だし しょうゆ」を観て

2015年04月05日 19時10分19秒 | 日記
今日も時折小雨の降る、ちょっと残念なお天気になってしまいました。桜の花もピークを越えてしまいましたから、この雨でだいぶ散るのが早まってしまったかも知れません。

そんな中、今日は映画鑑賞にアミューあつぎに行きました。観てきたのは「千年の一滴 だし しょうゆ」という作品です。これは日本とフランスとの合作で、日本では2014年にBS1で放送され、フランスでは6回にわたって再放送されたというものです。

内容はタイトルにもある通り、和食の基礎である出汁をテーマとした第一章と、日本の代表的発酵調味料である醤油に関する第二章からなるドキュメンタリーです。

日本は仏教伝来依頼、戒律に従って長く肉食を禁じてきました。そんな制限付きの食生活の中で古の日本人は、いかに満足できるものを食すかということを探究してしてきました。その中で出会ったのが『うまみ』というものであり、それを一番端的に味わえるものとして出汁ができました。

この『うまみ』という概念が認められたのはごく最近になってからですが、実は鎌倉時代の新興仏教のひとつ臨済宗の宗祖道元禅師が「食も修行のひとつである」とした考え方の中で、五味…甘味、酸味、苦味、塩味、辛味の他にもう一つ『淡味(たんみ)』というものを挙げているのです。この『淡味』こそが今日の『うまみ』であると言われています。それは、とかく低タンパクになりがちな精進料理の中で、いかに戒律に抵触せずに不足したものを補うかということを念頭に置いた道元が感じ得た『第六の味覚』だったのかも知れません。

出汁の材料になるものが台所に到着するまでも大変です。

北海道で獲れる昆布は、海底に着床・発芽してから二年目のものだけを狙って収穫し、一度天日で干して乾燥させたものを再び夜露にあててあえて細胞壁を壊し、出汁が出やすいようにするという工夫と手間がかけられています。また、鹿児島・枕崎の鰹節工場では、鰹を捌いて茹でてから日に干して、表面に生やしたカビに鰹の水分と脂分を分解させながら、長い時間をかけて本枯節というアミノ酸の塊のようなものに仕上げていきます。そして、昆布のグルタミン酸と鰹節のイノシン酸とが出会うと、最高の出汁が出来上がります。

寺院の食事で動物性の鰹節が使えない場合には、代替品として干し椎茸が使われます。これでも十分なうまみが出てくるのですが、その椎茸を古来から伝承された方法で作るお年寄りは、原木になる木の組織を舐めて味を確認し、幹に耳をつけて木が水を吸い上げる音を聞きます。そしてその舌と耳とに適った木が、椎茸の栽培用の原木となるのです。こういった感覚的な部分も、日本人ならではのものではないでしょうか。

第二章では、醤油や味噌をつくるのに欠かせない『オリゼー(コウジカビ)』の存在にスポットをあてたものとなっています。実はこのオリゼー、世界中で日本にしか存在しない微生物なのです。元はかなり近い性質をもつ別のカビがルーツになっているだろうということですが、先人達が酒や味噌を作っていった際に、味の悪いカビを排除したり、選別した中から出てきた突然変異体を選り分けながら、長い時間をかけて作り出し、磨き上げてきたものでした。

パスツールがイースト菌の培養に成功したのは19世紀でしたが、既に日本ではその500年も前から麹を培養して使っていたのだそうです。バイオテクノロジーの発祥は日本であると言っても過言ではないのです。

驚いたことには、このオリゼーを専門で培養している『種麹屋(たねこうじや)』という会社が存在しているのですが、日本国内にたった10軒しかないらしいのです。日本全国の造り酒屋や、醤油・味噌の醸造元といったところが、そのたった10軒から種麹を買っているのだそうです。逆に言えば、仮にその10軒が全て潰れてしまったら、もう醤油もなにも二度と口にすることができなくなってしまうのです…是非とも頑張って頂きたいと思います。

この映画を観終わると、ものすごく和食が食べたくなります。さて、今日の夕餉は何にしましょうか…。

「千年の一滴 だし しょうゆ」予告編
コメント
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