共 結 来 縁 ~ あるヴァイオリン&ヴィオラ講師の戯言 ~

山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁…山川の域異れど、風月は同天にあり、諸仏の縁に寄りたる者、来たれる縁を共に結ばむ

嵐に聴くハイドン《交響曲第26番ニ短調『哀歌』》

2024年08月29日 17時00分17秒 | 音楽
台風10号は当初の予報から大きく遅れ、今日の16時現在でもまだ長崎県雲仙市付近に留まっています。動くスピードも時速15kmと自転車並みで、台風の進路予想も刻々と変わっていっています。

神奈川県は台風から遠く離れているものの断続的に雨が降り、時折激しく叩きつけるように降っています。これでまだ台風本体の雨ではないのですから、実際に接近してきたらどうなってしまうのでしょうか…。

気圧が低いこともあって朝から調子が悪く、天気痛と思われる頭痛にも悩まされています。一応薬は飲みましたが、ほぼ一日寝たきりの状態です。

ただ横になっていても暇なので、あれこれと音楽を聴いて過ごしていました。最近モーツァルトを聴くことが多かったのですが、今日は



ハイドンの音楽を聴いていました。

今日はハイドンの『疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドラング)』期の音楽を聴いていました。そんな中から、今回は《交響曲第26番ニ短調》をご紹介しようと思います。

ハイドンの《交響曲第26番ニ短調Hob. I:26》は自筆原稿が残っていないため、正確な作曲年代は不明です。短い3楽章構成であることもあって、かつては3楽章の交響曲を多く書いていた初期の1765年から1766年頃の作品とされていましたが、草稿目録上の位置や様式などの研究により、現在ではもっと進んだ1768年から1769年頃の作品と考えられるようになっています。

先程も書きましたが、この交響曲はハイドンの『疾風怒濤(シュトゥルム・ウント・ドラング』期にあたる作品の一つです。この時期には短調の交響曲が多数作曲されていますが、本作もその一つにあたります。

ハイドンの初期の交響曲には3楽章形式のものが少なくないのですが、1765年以降の交響曲で3楽章形式なのはこの第26番と第30番『アレルヤ』の2曲だけです。この2つの交響曲はどちらも典礼音楽を引用した宗教的交響曲で、パトロンであるエステルハージ公邸ではなく教会で演奏するために作曲されたと考えられています。

この曲の現存最古の筆写譜には「受難と哀歌」(assio et Lamentatio)と記されています。第1楽章には当時のオーストリアの受難劇でよく使われていた音楽を引用していたり、第2楽章には『エレミヤの哀歌』の音楽が引用されていることから『哀歌(Lamentatione)』という愛称でよばれることもあります。

《交響曲第26番『哀歌』》は、この時代の交響曲としては珍しくメヌエットで終わる3楽章で構成されています。また、第1楽章と第2楽章に受難週と関係する音楽を引用しているところに特徴がある作品です。

第1楽章はアレグロ・アッサイ・コン・スピーリト、ニ短調、4分の4拍子。


シンコペーションのリズムによる疾走感の表出という手段は、



1773年に作曲されたモーツァルトの《交響曲第25番ト短調》と共通しています。第2主題として



第1オーボエと第2ヴァイオリンにグレゴリオ聖歌の受難コラールが現れ、それを第1ヴァイオリンが修飾していきます。

再現部では第2主題のコラールがニ長調に転調して、



ホルンも加わって奏されます。ニ長調に転調するのは第2主題が聖歌の引用であるために短調にしたくなかったことも理由にあるのでしょうが、当時の短調の交響曲の第1楽章で再現部が長調のままで終わる作品は、当時のハイドンの交響曲では他に例がありません。

第2楽章はアダージョ、ヘ長調、4分の2拍子のソナタ形式で、第2オーボエは終始休止します。



第1オーボエと第2ヴァイオリンにグレゴリオ聖歌の『エレミヤの哀歌』のコラールが引用され、第1ヴァイオリンが対旋律や16分音符の音型で絡んでいき、低弦は規則正しくリズムを刻んで歩みを進めていきます。このコラールは『エレミヤの哀歌』の冒頭の「インチピト・ラメンタツィオ(哀歌が始まる)」という旋律で、ハイドンはこの曲の他にも交響曲第45番『告別』のトリオや、交響曲第80番のトリオなどでこの旋律を用いています。

第3楽章はメヌエット - トリオ、ニ短調 - ニ長調の4分の3拍子。



メヌエット部は2対1のリズムで、モーツァルトも好んで使ったナポリの6の和音や突然の全休止などが印象的です。後半は緊迫した転調を繰り返し、前半に登場した動機を使った低声部主体のカノンとなって再現されて盛り上がります。

トリオはニ長調となり、



3拍目が強奏される特徴的なフレーズの後に、ヴァイオリンが音階を下降する独創的な主題が特徴的です。こうした3拍目が強調される3拍子というのは上手くやらないとひたすらダサいだけになってしまうので、演奏にはかなりの集中力と緊迫感が必要です。

そんなわけで、今日はハイドンの《交響曲第26番ニ短調『哀歌』》をお聴きいただきたいと思います。ニコラス・ウォード指揮によるノーザン室内管弦楽団の演奏で、後のモーツァルトの《交響曲第25番ト短調》に影響を及ぼしたかも知れないハイドンの隠れた名曲をお楽しみください。


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