今朝はかなり涼しい風が吹いていましたが、お昼近くになると結局暑くなりました。かつての猛暑日に比べれば気温はそこまでではないにせよ、やはり台風絡みなのか、空気中の湿度はなかなかの高さでした。
ところで、今日9月17日はジェミニアーニの祥月命日です。
フランチェスコ・ジェミニアーニ(1687〜1762)はイタリア後期バロック音楽の作曲家・ヴァイオリニスト・音楽理論家です。演奏家として主にロンドンやダブリンで活躍し、後期バロックの作曲家としてアルカンジェロ・コレルリ(1653〜1723)からゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685〜1759)をつなぐ存在でもありました。
イタリア・ルッカに生まれたジェミニアーニは、音楽全般をアレッサンドロ・スカルラッティ(1660〜1725)に、ヴァイオリンをコレルリにという、いずれ劣らぬビッグネームに師事しました。1711年からはナポリの宮廷楽団のコンサートマスターに就任し、しばしば旧師スカルラッティと接触する機会を持ちました。
1714年にヴィルトゥオーソとしての評判を買われてロンドンに招かれたジェミニアーニは、とりわけ第3代エセックス伯ウィリアム・カペルの格別の庇護を受けました。1715年にはヘンデルの通奏低音による共演で、イギリス国王ジョージ1世の御前で演奏を披露したこともありました。
ジェミニアーニの作品のうちでも有名なのは、作品3や恩師コレッリのヴァイオリン・ソナタを改作した作品5、作品7といった《合奏協奏曲集》です。ジェミニアーニの合奏協奏曲の特徴は、通常ヴァイオリン✕2とチェロの3名で構成されるコンチェルティーノ(ソリストグループ)にヴィオラを導入して、実質的な弦楽四重奏を形成していることです。
こうした作品は、当時コレルリの音楽を愛していたロンドンの聴衆を喜ばせるために作曲されました。ジェミニアーニの音楽はコレルリのスタイルを踏襲して非常に対位法的に労作されていて、同時代のヨーロッパ大陸で流行していたいわゆる『ギャラント様式』の音楽とは好対照を成すものとなっています。
また、1751年にロンドンで出版されたジェミニアーニの理論書『ヴァイオリン奏法論』は18世紀イタリアのヴァイオリン演奏の方法論について最も有名な概説となっていて、ヴィブラートやトリルなどの演奏技巧に詳しい説明が加えられていることから、後期バロック音楽の演奏習慣の研究者にとって、有意義な著書となっています。また『和声法指南』は通奏低音の実践についての全2236ものパターンが載っている後期バロック音楽の比類ない理論書で、作曲の学習者がこの著書を基に学べば、その後どんなバス課題に対してもすっかり対応することができるように配慮された百科事典的な著書となっています。
ジェミニアーニは音楽教師や作曲家として生計を立てる一方で美術の蒐集や販売にも熱を上げていましたが、こちらは必ずしも成功したとはいえませんでした。しばらくはパリで暮らしていましたが、1755年には再びイングランドに戻りました。
ところが1761年にダブリンを訪れた際、多くの時間と労力を捧げた手稿を使用人の一人に盗まれてしまいました。一説によると、この事件の悔しさと心労がジェミニアーニの死期を早めてしまったのではないかとも言われています(享年74)。
さて、そんなジェミニアーニの作品から今回は《ヴァイオリン・ソナタ Op.4》をご紹介しようと思います。
合奏協奏曲で有名なジェミニアーニですが、ヴィルトゥオーゾだったこともあってソロソナタも作曲していました。《ヴァイオリン・ソナタOp.4 》は1739年にロンドンで出版されたもので、師匠であるコレルリの影響が随所に見られるものとなっています。
そんなわけで、ジェミニアーニの祥月命日である今日は《ヴァイオリン・ソナタOp.4》から第9番ハ短調をお聴きいただきたいと思います。師匠のコレルリやアレッサンドロ・スカルラッティの短調作品にも通じるような、後期バロックらしいジェミニアーニの旋律世界をお楽しみください。