今日もよく晴れた、穏やかな天気の一日となりました。そんな中、私は相変わらず我が家で小学校勤務へ向けての内職作業に勤しんでいました。
ところで、昨日
バッハの《ヴァイオリンとチェンバロのためのソナタ》について書きましたが、バッハは自身の作品を様々なかたちに編曲してもいますので、今回はそのことについて書いてみたいと思います。今回とりあげるのは、ヴァイオリン独奏曲の金字塔的作品である《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》から、パルティータ第3番ホ長調 BWV1006の第1曲目『プレリュード』です。
《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータBWV1001〜1006》は、3曲ずつのソナタ(BWV番号は奇数)とパルティータ(BWV番号は偶数)合計6曲からなるもので、ヴァイオリン独奏曲として今日では古今の名作の筆頭に数えられ、『ヴァイオリン音楽の旧約聖書』とも称えられています。作曲時期は1720年、バッハが35歳の頃で、ケーテン宮廷楽長として音楽好きの君主レオポルト侯に仕え、多くの世俗曲(協奏曲、室内楽曲)を書いていた頃の楽曲です。
バッハの時代にはこのような無伴奏のヴァイオリン曲というのは人気があったようで、バッハ以前にも様々な作曲家が作品を作曲していました。たとえばイタリアのフランチェスコ・ジェミニアーニ(1687〜1762)、ドイツのハインリヒ・イグナツ・フランツ・フォン・ビーバー(1644〜1704)やヨハン・ゲオルク・ピゼンデル(1687〜1755)といった作曲家が試みていて、優れた作品を残しています。
このバッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》は特にピゼンデルの影響が指摘されていて、バッハはビゼンデルとも交流があったことから、ヴァイオリン奏者としても名高かったピゼンデルのために書いたのではないか…とも推定されています。ところが古典派以降になるとこの無伴奏という形式はパッタリと流行らなくなり、次に無伴奏ヴァイオリン音楽が登場するのは20世紀に入ってからのウジェーヌ・イザイ(1858〜1931)やバルトーク・ベーラ(1881〜1945)らを待たなければなりません。
話を戻して、バッハの《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 バッハ 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータBWV1006》は一般的な組曲の配列からは大きく逸脱して、最も自由に振る舞っています。そのために全6曲の中では最も明るく、最も華麗な音楽になっています。
また全6曲の中では比較的演奏しやすい作品であるため、昔からコンサートピースとしても高い人気を持っています。特に第3楽章の『ガヴォット』は、《無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ》という曲名を知らない人でもどこかで一度は耳にしたことがある有名な旋律です。
そんなわけで、今日はバッハ自身による編曲の妙を聴き比べていただきたいと思います。先ずは原曲である《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番 ホ長調 BWV1006》のプレリュードを、川畠成道氏の独奏でお楽しみください。
後にバッハは自身の手で、このパルティータを1オクターヴ下げてリュート用に編曲しています。ヴァイオリンだけでは表現しきれなかったバスパートがつけられ、原曲とはまた違った豊かな響きを感じることができます。
ということで、次にそのリュートバージョン《パルティータ ホ長調 BWV1006a》のプレリュードをお聴きいただきたいと思います。今村泰典氏のバロックリュートによる演奏で、より重厚さの加わった姿をお楽しみください。
更にこのプレリュードは、教会音楽であるカンタータの冒頭を飾るシンフォニアにも転用されています。それがカンタータ第29番《神よ、我ら汝に感謝せん》です。
このカンタータはライプツィヒ市の公の行事の為に作られた事もあり、ティンパニにトランペット3本を加えた祝祭的で華やかなカンタータです。そして、その冒頭のオルガン協奏曲かのようなシンフォニアに《無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第3番》のプレリュードが、ニ長調に一音下げて使われています。
というわけで、プレリュードをバッハ自身が編曲したカンタータ第29番《神よ、我ら汝に感謝せん》のシンフォニアをお聴きいただきたいと思います。ネーデルラント・バッハ・ソサエティの演奏で、ものすごく華やかな姿になったプレリュードをお楽しみください。