昨日の天気予報では28℃くらいまで最高気温が上昇するとのことでしたが、日照が無かったせいか実際にはそこまで気温は上がりませんでした。それでも空気の中に暑さの片鱗は見られましたから、明日以降が思いやられます…。
ところで、6月も半ばを迎えてあちこちで
マツヨイグサや
コマツヨイグサの花を見かけるようになりました。この花が咲くと、本格的な梅雨時だなと感じるようになります。
さて、マツヨイグサと言って思い浮かぶのは《宵待草》です。《宵待草》は
美人画で有名な竹久夢二の作詞、多忠亮(おおのただすけ)作曲による、今や日本歌曲のスタンダードナンバーのひとつとなっている名曲です。
1910年(明治43年)の夏、前年に離婚したにもかかわらずよりを戻した妻と2歳の息子を伴って房総方面に避暑旅行した夢二は、銚子から犬吠埼を経由して海鹿島(あしかじま)の宮下旅館に滞在しました。ここは太平洋に向かう見晴らしの良さで、明治から多くの文人が訪れた名所でもありました。
そこで夢二はたまたま当地に来ていた、秋田出身で当時19歳の長谷川カタという女性に出会いました。彼女の一家は秋田からちょうど宮下旅館の隣の家に転居してきていて、旅館に滞在していた夢二はカタと出会って親しく話すうちにすっかり心を惹かれた夢二は、妻子がありながらも彼女を呼び出して束の間の逢瀬を持ちました。
旅館付近を散歩する夢二とカタの姿はしばしば近隣住民にも見られていましたが、当然のことながら二人は結ばれることのないままで、夢二は家族を連れて帰京しました。一方のカタも夏休みが終わると成田へ戻り、父親は娘の身を案じて結婚を急がせました。
翌年、再びこの地を訪れた夢二は彼女が嫁いだことを知って自らの失恋を悟り、この海辺でいくら待ってももう現れることのない女性を想って悲しみにふけったといわれています。そして、宵を待って花を咲かせる宵待草に事寄せ、実らぬ恋を憂う気持が
この詩を着想させたといわれています。
如何にも恋多き竹久夢二らしい、哀しいエピソードです。妻子ある男の不倫と言ってしまえばそれまでですが、その恋が無ければこの名曲も生まれなかった…と思うと、いろいろと考えさせられます。
そんなわけで、今宵はマツヨイグサに事寄せて名曲《宵待草》をお聴きいただきたいと思います。昭和3年に発売された、四家文子(よつやふみこ)の歌唱によるレコード音源をお楽しみください。