連日東京五輪の報が届けられ、様々なメダリストが誕生していますね。特に昨日はフェンシング・エペ男子団体で日本チームが初の金メダルを獲得し、日本フェンシングの存在感を内外にアピールしました。素晴らしいことです。
ところで、今日はフランツ・リスト(1811〜1886)の命日なのだそうです(享年74)。
ハンガリー生まれのリストは主にフランス・パリでピアノの大ヴィルトゥオーゾとして活躍して一世を風靡し、歴史上もっとも技巧に長けたピアニストとも言われています。また、その優れた演奏技術と肖像画からも伝わるイケメンぶりでの人気故に浮き名を流した女性は数知れず、スキャンダラスな逸話が数多いことでも知られています。
リストの天才ぶりを示す逸話として彼はどんな曲でも初見で弾くことができ、例えばヴァーグナーの楽劇のオーケストラのスコアでも初見で完璧に弾くことさえできたといいます。そして2度目に弾くときは、必ずリスト御自慢の即興をたっぷり付け加えて弾いたのだそうです。
ピアニストとして盤石の地位を築き上げたリストですが華やかな管弦楽作品も作曲しており、《レ・プレリュード》を始めとした『交響詩』というジャンルを作り上げました。ただ、晩年の作品は響きが内向的になってきて、調性感も曖昧になってきます。
さて、華々しい作品が目を引くリストですが、実はヴィオラのためのオリジナル作品も残してくれています。それが《忘れられたロマンス》という小品です。
この曲は、元々1843年に作曲された《女の涙》という題名の歌曲を1880年にヴィオラとピアノの為に書き直したもので、同時期にピアノソロバージョンも書いています。因みに、リストの晩年には《忘れられた〜》という名前が付く作品がいくつかありますが、それがどういう意味でつけたのかは見解が別れていて、現在でもよく分からないそうです。
あるピアニストは「過ぎ去った時代や喜びの幻影を示唆する」と言っていますが、個人的見解としては《忘れられた〜》の意味は晩年のリスト自身の想いのことなのではないかと思っています。もっとも、特に晩年のリストはどの曲も人に聞かせて賞賛を得ようとあざとく書いたりしていないのも事実だったりしますが…。
この《忘れられたロマンス》ですが、大きく2つの部分に分かれます。前半のホ短調9/8拍子の部分は切なさが滲み出ているリストのロマンティックな歌が魅力的で、明るいホ長調に転じた後半の2/4拍子の部分は、まるでリストが華やかなりし自身の過去を思い返しているかのような響きのアルペジオが聞かせどころです。
そんなわけで、リストの祥月命日の今日はその《忘れられたロマンス》の動画を転載してみました。4分程の小品ですが、有名な《ラ・カンパネラ》を始めとした華やかな作品とはまた違った、しっとりしたリストの世界観をお楽しみください。