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列車事故

 先週の土曜から妻は息子のところに出かけていた。息子の部屋にやっとインターネットの光回線がつながったのだが、PCに関してまったくの素人である息子ではうまく設定ができないようなので、自分が行ってセットアップしてくるとうれしそうに出かけていった。何やかやと毎月一回のペースで東京まで出向いているのだから、ご苦労なことだ。電車の乗り継ぎなどもさっさとできるようで、ちょっとばかり羨ましい・・。
 ネットの接続がうまくいけば日曜の夜には帰ってくると言っていたが、暗くなっても連絡がない。と言っても、塾が終わってビールを飲み始めてしまった私に車で駅まで迎えに行くことはできない。それどころか、日曜の朝はヤンキースの試合の中継があり7時ごろから起きていたため、急速に酔いが回りいつの間にか眠りこけていた。ふっと目覚めたのが夜の9時過ぎ、携帯を見ても着信していないようなので、こちらから妻に電話してみた。
「もしもし、帰ってくるの?」と寝ぼけながらたずねたら、
「新幹線には乗ったんだけど、私の乗った1台前の新幹線に事故があったみたいで、今新横浜で停まってるの。しばらくは動かないようだから、どうしたらいいかな・・」
「何?どんな事故?」
「人が飛び込んだみたい。かなり時間がかかるみたい」
「そうか・・。それなら東京に戻ったほうがいいんじゃないの」
「そう思う?」
「そのほうがいいだろう」
「じゃあ、戻れるかどうか駅員さんに聞いてみる」
と言って電話を切ったが、こんなこともあるんだなと驚いた。新横浜なら東京に戻って息子のところでもう一泊したほうが便利だ。復旧を待っていたら、何時に名古屋に着けるか分からない。もし名古屋まで来れたとしても、電車は動いてないだろうからタクシーに乗ることになる、それでもかなり遅くなる。何もそこまでして帰って来る必要もないだろう。息子のところで寝るべきだ、などとしばらく考えていたら、妻から電話が入った。
「聞いたら、払い戻しはしてくれるんだって。東京に戻るならJRは無料になるらしいから、今夜は帰らないでおくね」
「おお、それがいい。じゃあ、気をつけて」
などと気軽に言えるのも、妻が新横浜からどうやったら息子のところまでたどり着けるか、苦もなく考え付くことができるからだ。何にせよ、修行はしておいて損はない。私のようにどこにも出かけたことのない人間だったら、ただただ途方にくれてしまうだろうが、その点妻なら大丈夫だ。私は事態が一段落してほっとしたのか、ビールを飲みなおしながらPCに向かっていたら、いつに間にかまた眠ってしまった。

 月曜の朝、朝刊を見ても昨夜の事故のことがまったく載っていない。大勢の人に影響が出たはずだから何も記事がないのも変だなと思った。まさか妻がもう一晩東京で泊まるために作り出した嘘でもないだろうし、不思議な気がした。するとさすがに夕刊には事故の記事が載っていた。

 「8日午後8時45分ごろ、神奈川県小田原市城山、JR小田原駅の東海道新幹線ホームで、通過中の東京発新大阪駅行き「のぞみ155号」に男性がはねられ死亡した。県警小田原署は飛び込み自殺とみて、身元の確認を急いでいる。乗客らにけがはなかった。JR東海によると、東海道新幹線は上下42本が最大で3時間遅れ、乗客約3万人に影響が出た」

復旧が遅れ車中で夜を明かした乗客も大勢いたようだが、妻は在来線を乗り継いで11時過ぎには息子のところに着いたそうだ。月曜の昼過ぎに自宅に戻ってきたが、我が家はたいした影響を受けずにすんだ。しかし、列車への飛び込み自殺はこんなにも大勢の人に迷惑をかけるものなんだな、と実感した。
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