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窓外の敵

 ここ数日、朝はセミの声に起こされている。クーラーをかけて寝たくはないので、窓を少し開けたまま眠っているのだが、そのおかけで夜が明けてセミが鳴き始めるとうるさくてたまらない。網戸にしがみついて鳴くやつもいて、とても寝ていられるもんじゃない。日差しも次第に強くなり、ジリジリ背中を焦がしてくるから、我慢できずに窓を閉めてクーラーをかけることもある。朝陽の中でのまどろみは甘美な楽しみだが、今のこの暑い時期、そんな悠長なことを言っていられるような状況ではない。少しでも長く寝て、暑い一日を乗り切ろうとしている身には、セミは大敵である。
 先日TVで、アブラゼミの名の由来についてクイズをやっていた。正解は、「アブラゼミの鳴き声が、物を油で揚げるときの音に似ているからこの名がついた」というものだったが、そう思って聞いてみると確かにそう聞こえる。泣き声から名前を付けるというのは、単純だが、なるほどと納得できて面白い。そんなことを思っていたら、吉行淳之介の次の文章を思い出した。

 ところで、なぜ「クマ」というか、はじめて知っておどろいた。クマクマクマと鼻を鳴らすように鳴くから、その名がついたという。英語の「ベアー」も、やはり鳴き声からで、英語国民にはベアーベアーと聞こえるわけだ。コケコッコーというニワトリの鳴き声が、英語では「コッカドードルドウ」となるのと同じである。またドイツ人にはベールベールときこえるので、クマのドイツ語は「ベール」である。       (「珍獣戯話」より)

 吉行淳之介がこんな文章を書いていたのは意外であったが、世界中同じような発想で「クマ」に命名したというのは興味深い指摘だ。
 だが、私の安眠を妨げるのはセミだけではない。この前の日曜日、6時頃窓の外から聞こえる妙な音で目が覚めた。私のベッドのすぐ横の窓の外は崖になっていて、その上にはある会社の社員住宅が建てられている。その住宅には「クリフ(崖)サイド」などという冗談のような名前が付けられているが、その崖は夏になると、草木が伸びたいように伸び、人一人くらいならすっぽり隠れてしまうほどだ。


「ジャキ、ジャキ」と崖の藪の辺りから音がしてくる。カチャカチャと金属音も混じりながら、止むことがない。「何だ?」と、寝ぼけ眼で身を起こし、じっとそちらを伺うと人の影がちらつく。「草刈をしてるのか?」私は一瞬で目が覚めた。「まだ6時だろ?こんな時間から何で草刈なんだ!」じっと睨んでいても、向こうは気づくはずもない。前と同じように「ジャキ、ジャキ」「カチャ、カチャ」という音が繰り返される。「どうしよう?うるさい!って叫んでやろうか・・」しばらく躊躇している間に頭の中が徐々にはっきりして来た。『あの人影は上の社員住宅の管理人なんだろう。夜が明けたばかりの涼しい時間を利用して草刈をしようと思ったのじゃないだろうか。草刈機を使って、ブ~~ンと大きな音を立てているなら抗議してもいいだろうが、これくらいの音なら我慢すべき範囲なのかも知れない・・。』などと、気持ちが落ち着いてくると途端に物分りのいい人になろうとしている。そのまましばらく堂々巡りを繰り返していたが、結局は窓を閉めてクーラーをかけてもう一度眠ることにした。(まったく気が弱いんだから・・)
 それから少しは寝付くことができたが、どうしたって睡眠不足な感じは一日中抜けなかった。見れば、草刈もまだ途中のようだ。また朝早くから再開するかもしれない。その時にははっきりと文句を言うべきか、ただいま思案中である。
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