★ 1980年代の恋愛小説が村上春樹さんの「ノルウェイの森」だとすれば、1960年代は柴田翔さんの「されどわれらが日々ー」であろう。
★ 1955年、日本共産党が第六回全国協議会(六全協)で左翼冒険主義を批判し、軍事方針が放棄された時代。党の無謬性を信じ、地下に潜行し山村工作に動いていた人々に衝撃が走る。今まで正しいと信じていた教義に裏切られたような、驚愕と混乱と不安が一気に襲ったような事態だったようだ。
★ こうした時代背景の中で物語は進む。主人公の男性は東京大学で修士論文を書いている。この男性自体は政治とは深く関わっていない。他県での就職が決まり、これを機会に、知り合いの勧めで幼なじみの女性と婚約する。それからの2年、二人の恋愛とその関係が破綻するまでの日々が描かれている。
★ 全体の多くが手紙の引用という形をとっている。まずは長文の手紙に驚く。昔の人は随分と理屈っぽく、そして筆まめであったと思う。(自分のことをわかって欲しいという欲求が強かったのか)
★ なぜ人は伴侶を求めるのか。結婚によって孤独な心は満たされるのか。どれほど近づいても理解しあえない、ハリネズミのようにむしろ傷ついてしまう。純粋に、真剣に考えれば考えるほど深みにはまっていく。
★ 青春の苦悩、もっと大きく言えば生きることの苦悩を感じた。