★ 時代が変われば人も変わる。生き方も変わる。今日は、田中康夫さんの「なんとなく、クリスタル」(河出書房新社)を読んだ。1980年度「文藝賞」受賞作で、単行本は1981年に発行されている。初版が1月20日。私が持っているのが2月27日発行の24版だから、よく売れたようだ。
★ 主人公はアッパーミドル階層の女子学生。同じくアッパーミドル階層の男子学生と同棲している。女子学生はモデルとして、男子学生はミュージシャンとして平均的なサラリーマン以上の収入を得ている。
★ 稼いだ金で、ブランドを身に付け、昼に夜にとリッチに遊んでいる。二人はお互いに拘束しない。浮気も認めている。それは、そんなことではお互いに離れらないという自信の証なのか。
★ カタカナと引用符の多い文体に当時は驚いた。ファッション誌や東京のガイドブックを読むような感じだった。
★ ストーリーは、生活に困らないリッチな学生たちが、かわいらしい恋愛ごっこをしているようなものだが、表現は川上宗薫、宇能鴻一郎を思わせる過激さだ。
★ 60年代、70年代の学生とは全く違う人びと。当時はまだわからなかったが、作者は敏感にバブルの前兆を感じていたのかも知れない。クリスタルのように輝く80年代を。